「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。(「週刊ダイヤモンド」は先週が合併号のため、今週は休載)
存在感増すPR会社
2022年11月14日発売の「週刊東洋経済」(2022年11月19日号)の特集は、「氾濫するPR」。SNSや動画サイトが隆盛を極め、企業は消費者に直接、PRを展開できるようになった。この潮流に乗ったPR会社と旧来型メディアの浮沈をレポートしている。
従来、企業が消費者とつながる手段は、主にマスメディアを介した2つのルートに限られていた。新聞やニュース番組からの取材でメディアに露出する「パブリシティー」と、メディアに手数料を支払って打ち出す「広告」だ。
地上波テレビとCMビジネスをなりわいとする大手広告代理店が発展したことで、パブリシティーは注目されていなかったが、PR会社の存在感が近年増しているという。
報道機関のうち、日常的にPRから情報を受けている、または影響を受けているコンテンツの割合は最大で75%に上るという調査もある。PR業の市場は、2020年に1111億円に達したというデータもある。
成長市場に新旧のプレーヤーがひしめくPR会社。国内首位は、ベクトルだ。1993年創業と後発ながら、事業の多角化で首位に上り詰めた。PR・広告事業とそれ以外の事業とがほぼ半分ずつという構成。子会社でプレスリリース配信プラットフォームのPR TIMESなどが伸びている。
20年連続の売り上げ減にあえでいた老舗製缶会社が、消費者向け商品で思いがけないヒット商品を生み出す起爆剤になったのが、PR TIMESに投入した1本のリリースだった。
愛知県に本社を置く側島製罐が、2022年5月、子どもの思い出を保管するための缶「Sotto(ソット)」を消費者向けに発売したことを告知したところ、約20件の取材を受けた。その後、納品2カ月待ちの状態になったそうだ。
同社は、SNS周りの動画施策も強化している。番組コンテンツやプロモーションビデオなど動画の企画制作、さらにタクシーや美容室などに自前で設置したデジタルサイネージで流す、ソリューションも構築している。
ちなみに、企業の広報担当者へのアンケート調査で、PR会社の満足度を尋ねている。総合で1位になったのは、サニーサイドアップだ。「イベント運営時も報道陣のニーズを捉えて進行や時間配分の提案をしてくれる」など、担当者の姿勢を評価する声が複数寄せられた。
戦略策定・コンサル案件で満足度が最も高かったのは、博報堂DYホールディングス傘下のオズマピーアールだ。「社内広報から直言しにくいことも忌憚なくフィードバックしてもらえた」という声も。一方、イベント運営など代行案件でトップに立ったのは、電通PRコンサルティングだ。独立系と大手広告代理店系がしのぎを削っていることがわかる。
◆話題の「note」...活用する企業が1万2000社
自社の顧客や消費者への情報提供、ブランディングを目的にした「オウンドメディア」のブームが、2010年代に起きたが、下火になった。その代替手段として台頭しているのが、コンテンツ配信プラットフォームの「note」だ。
一般的なネットメディアやブログサービスと違い、広告掲載枠や閲覧数ランキングを設けていないのが特徴。読者それぞれの好みに合わせ、個人記事・法人記事の両方をレコメンドする。現在法人利用は1万2000社を超える。
熱心に利用する企業の1つが菓子メーカーのカルビーだ。「カード化する選手をどう決めるのか」という記事が好評だったという。自社の「秘話」をフルに活用するのが、読まれる秘訣だそうだ。
企業広報の覆面座談会では、「PR会社を『脳』に使うな」という発言が印象に残った。PR会社が広報戦略や商品企画など、経営の上流まで食い込む提案を強化していることを警戒している。それは、広報の存在意義につながるからだ。
とはいえ、報道人材がPR領域に続々と転職しているのも事実だ。NHKや朝日新聞社からの転職例を取り上げている。また、京都新聞社などPR TIMESと提携した地方メディアは19社になったという。
だが、「報道機関の持続性がPR会社に依存するようであれば、報道は氾濫するPRにのみ込まれたも同然だろう」と同誌は警鐘を鳴らしている。
ブロック経済再来の恐れ
「週刊エコノミスト」(2022年11月22日号)の特集は、「歴史に学ぶ 戦争 インフレ資本主義」。ウクライナを舞台にした米英など西側とロシアの敵意が先鋭化し、第二次世界大戦を招いたブロック経済が再来すれば、貿易縮小や歯止めの利かないインフレなどにより、資本主義経済に激痛をもたらす可能性も否定できないという。
興味深いのは、ロシアのウクライナ侵攻後の主要国の対ロシア貿易額と、前年同期比増減率の表を示したところだ。インドは3.5倍と大きく伸びている。これは、ロシア産原油の輸入急増と見られ、対露強硬派の英米が大幅に減少するなかで、同盟・外交関係によって経済圏が分断される「ブロック化」が形成されつつある、と指摘している。
エネルギー問題に詳しい藤和彦・経済産業研究所コンサルティングフェローは、「過去30年続いたグローバリゼーションの後戻りが起きている。世界のサプライチェーン(供給網)が最適化されてディスインフレ(物価上昇の鈍化)が続いてきた。今後、経済のブロック化が進めば、30年継続したディスインフレが5年くらいで巻き戻される可能性がある。戦争が終わらず地政学リスクが高まれば、ますます生産コストは上昇する」と、インフレが長期化するとの見方を示している。
長谷川克之・東京女子大学特任教授は、国際通貨体制の危機を懸念している。世界では変動相場制よりも、何らかのペッグ(連動)制を採用している国が圧倒的に多く、香港のように米ドルペッグ型の国が37カ国もあるという。
こうした米ドルペッグ制の新興国の多くが、香港のように自国通貨買い・米ドル売りの為替介入を強いられていることが考えられ、歴史的な米ドル高は米ドル資産の取り崩しと米ドルペッグの見直しを通して、地位低下につながるリスクをはらんでいるという。
外貨準備の多様化やSDR(国際通貨基金の特別引き出し権)の活用が進めば、ユーロ、人民元、日本円が主たるドルの受け皿になることが予想され、日本の通貨戦略が問われるとの指摘も印象的だ。(渡辺淳悦)