ブロック経済再来の恐れ
「週刊エコノミスト」(2022年11月22日号)の特集は、「歴史に学ぶ 戦争 インフレ資本主義」。ウクライナを舞台にした米英など西側とロシアの敵意が先鋭化し、第二次世界大戦を招いたブロック経済が再来すれば、貿易縮小や歯止めの利かないインフレなどにより、資本主義経済に激痛をもたらす可能性も否定できないという。
興味深いのは、ロシアのウクライナ侵攻後の主要国の対ロシア貿易額と、前年同期比増減率の表を示したところだ。インドは3.5倍と大きく伸びている。これは、ロシア産原油の輸入急増と見られ、対露強硬派の英米が大幅に減少するなかで、同盟・外交関係によって経済圏が分断される「ブロック化」が形成されつつある、と指摘している。
エネルギー問題に詳しい藤和彦・経済産業研究所コンサルティングフェローは、「過去30年続いたグローバリゼーションの後戻りが起きている。世界のサプライチェーン(供給網)が最適化されてディスインフレ(物価上昇の鈍化)が続いてきた。今後、経済のブロック化が進めば、30年継続したディスインフレが5年くらいで巻き戻される可能性がある。戦争が終わらず地政学リスクが高まれば、ますます生産コストは上昇する」と、インフレが長期化するとの見方を示している。
長谷川克之・東京女子大学特任教授は、国際通貨体制の危機を懸念している。世界では変動相場制よりも、何らかのペッグ(連動)制を採用している国が圧倒的に多く、香港のように米ドルペッグ型の国が37カ国もあるという。
こうした米ドルペッグ制の新興国の多くが、香港のように自国通貨買い・米ドル売りの為替介入を強いられていることが考えられ、歴史的な米ドル高は米ドル資産の取り崩しと米ドルペッグの見直しを通して、地位低下につながるリスクをはらんでいるという。
外貨準備の多様化やSDR(国際通貨基金の特別引き出し権)の活用が進めば、ユーロ、人民元、日本円が主たるドルの受け皿になることが予想され、日本の通貨戦略が問われるとの指摘も印象的だ。(渡辺淳悦)