「年収400万円の正社員をやめて専業主婦になり、小4の娘に母親らしいことをしてあげたい」
48歳の女性の投稿が炎上気味になっている。家から10分、残業ナシ、人間関係良好の申し分のない職場だが、女性はヘトヘトに疲れていた。
ママっ子の娘と一緒にいる「最後の母娘時間」を持ちたいというのが願いだが、「もうすぐ反抗期を迎えるというのにもったいない」「みんな不調を抱えながら頑張っているのだから」とやめないでコールの大合唱だ。
女性は働き続けるべきか、それとも......。専門家に聞いた。
「夫婦で互いに何を望み、何を我慢しているのかハッキリさせる」
<「年収400万円正社員やめて専業主婦に」女性の投稿が炎上! 仕事に疲れ、小4娘に母親らしいことしたい「もったいない?」「やめてもいい?」...専門家に聞いた(1)>および<「年収400万円正社員やめて専業主婦に」女性の投稿が炎上! 仕事に疲れ、小4娘に母親らしいことしたい「もったいない?」「やめてもいい?」...専門家に聞いた(2)>の続きです。
――また、家事を外注したり、調理家電を買ったり、宅配食事サービスを使ったり、なかには子どもたちに家事を手伝わせてはという意見もありました。
川上敬太郎さん「仕事を続ける前提であれば、家事負担を減らすという意味で現実的な選択肢の一つだと思います。ただ、もしも投稿者さんが疲れてしまっている大きな要因が仕事そのものであった場合は、それらは解決策になりません。まずは投稿者さんの体調を最優先に考えたうえで、仕事を続けていくという判断をした場合にのみ、検討すればよいのだと思います」
――それにしても、夫が全く家事を手伝わない人間ですね。この夫に対しては、投稿者はどう接したらよいでしょうか?
川上敬太郎さん「まずは、ご夫婦が人生のパートナーとして、お互い気持ちよく生活していくためには何が必要なのかをじっくりと話しあうことが大切なのではないでしょうか。夫が家事をしないことを追及する以前に、お互いが何を望んでいて、何をガマンしているのかをハッキリさせておかないと、考えの違いをすり合わせようにも話が前に進んでいかないように思います。
もし、投稿者さん自身は働くことを強くは望んでおらず、専業主婦になることで、自分自身も含めてご家族がみんな幸せに暮らしていくことができるとお考えなのであれば、それを実行に移せばよいと思います。
しかし、本当は投稿者さんご自身の中に働きたい気持ちがあるものの、夫との間で家事をシェアするイメージが持てないために、働くことをあきらめてガマンしようと考えているのであれば、投稿者さんも働き続けながらムリが生じない家庭運営のあり方について、夫と一緒に考えられたほうがよいと思います」
「女は逃げられるからいいよな~」は、ただのグチ!
――なるほど。投稿者の本当の気持ち次第ですね。少数ですが、「人生一度きり、後悔のないように娘さんとの時間を大事にしたら」と、辞めることに共感する意見もありました。
川上敬太郎さん「好条件の仕事を辞めてしまうのはもったいない、というのも当然のアドバイスだと思います。しかし、繰り返しになりますが、どれだけ好条件の仕事であっても、体調が悪化して働くことができなくなってしまっては元も子もありません。『辞めてもいいよ』『後悔のないように』といったアドバイスもまた、親身で現実的なアドバイスなのだと思います」
――ところで、男性からですが、「女は専業主婦に逃げられるからいいよな。男はいくら仕事がつらくても逃げられない」という意見がいくつか...。
川上敬太郎さん「かねて男性は幼いころから、一家の大黒柱として家計収入を支えるのが役割だと教え込まれてきました。女性は家庭を守るもの、と教え込まれてきたのと全く同じです。それら性別役割分業のバイアスは、未だに社会の中に厳然と存在しています。
だからといって、女性である投稿者さんは仕事が辛くても逃げられて楽をしていると決めつけるのは、性別役割分業のバイアスを肯定しているように映ります。社会的立場、生い立ち、家庭環境など、人が受けている影響はさまざまで、個々に異なります。
男性がどうとか、女性がどうとか、性別という大きな分類で乱暴にくくって決めつけてしまうのではなく、投稿者さんが置かれている状況があることを踏まえてアドバイスする必要があるはずです。それを『女はいいよな』と大雑把な指摘をしても、ただ自分の境遇についてのグチをこぼしているだけのように見えてしまいます」
「辞めるか・辞めないかの二択に縛られてはいけない」
――本当にそのとおりですね。川上さんなら、ズバリ、投稿者にどうアドバイスしますか? 仕事を続ける努力をするべきですか。それとも辞めて、娘さんとの時間を大事にする生き方をすべきですか。それとも「第3の道」がありますか。
川上敬太郎さん「まずは、実際にできるか否かはいったん横に置き、ご自身にとって何がベストか、ご自身は心の奥底で本当は何を望んでいるのかに目を向けられてはどうかと思います。そして、夫にも協力してもらいながら、それを実現するためにどうすればいいのかを考えるという順序で進めていくことが大切なのではないでしょうか。
仕事を辞めるか否かは決して目的ではなく、ご自身が心から望んでいる状態を実現するための手段の一つでしかないはずです。
また、いったん少し気持ちを軽くするために、『ひとまず辞める』と決めてみるのも方法だと思います。そのうえで、『いつ辞めるか』を考える。辞めないか・辞めるかの二択に縛られてしまうのではなく、辞めない・すぐ辞める・いつか辞める、と三択に広げることで、気持ちにゆとりをもって考えやすくなる場合もあります。
「何よりもまず、自分の体調を最優先で考えよう」
――なるほど。YESかNOの二択ではなく、三択に考えるわけですか。まず仮に「辞める」と決めておいて、次に「いつ辞めるか」、あるいは「辞めないかもしれない」という選択の幅を時間とともに柔軟に広げていく。
川上敬太郎さん「仕事を辞めることはいつでも可能です。そして、誰もがいつかは必ず、仕事を辞める時が来ます。ひとまず辞めることを想定したうえで、辞める時期について焦点を当てて検討してみると、本当にいま辞めることがベストなのかが見えてくるかもしれません。
どれだけ好条件の仕事でも、体調を崩してしまうと働き続けることができないばかりか、家庭生活に支障が出たり、将来また働きたいという意欲まで失われてしまったりする可能性もあります。更年期の影響も心配です。
投稿者さんには、何よりもまず、ご自身の体調を最優先でお考えいただきたいと思います」
(福田和郎)