足元の円安加速は収まりつつあるようだが、「円安倒産」が急増している。
帝国データバンクが2022年11月9日に発表した「特別企画:「円安倒産」動向調査(2022年10月)」によると、今年(2022年)10月の「円安倒産」は過去最多に並ぶ7件に達し、2022年の累計でも過去5年で最多を記録した。
あらゆる物価が高騰して中小・零細企業の収益を圧迫しており、「円安倒産」は今後しばらく増加する可能性が高い。
地元で人気の海鮮料理店や、天然だしにこだわる飲食店が...
帝国データバンクが今年7月に行なったアンケート調査では、中小企業など約1万1000社のうち6割超が、円安が自社業績に「マイナス」の影響があると回答した。また、8月の別のアンケートでも約8割が「急激な円安によるコスト増加を実感している」と答えており、円安の恩恵を受ける企業より、打撃を受ける企業のほうが多いことがうかがえる。
今回の調査では、円安による輸入コスト上昇などが直接・間接の要因となって倒産した「円安倒産」は、10月に7件判明し、過去最多だった今年8月に並んだ。2022年は10月までで21件判明しており、2019年(22件)を上回り、過去5年で最多となるのは確実視される【図表参照】。
21件を業種別に見ると、食品関連(製造・卸・小売)が6件でトップ。以下、繊維関連が5件、機械器具、家具・建具関連がそれぞれ2件で続いた。負債規模別にみると、全体の6割強が負債5億円未満だった。
最近の主な倒産の事例をみると――。
(1)丸隆水産(有)(神奈川県)...1968年創業のマグロ全般を専門に取り扱う水産卸業者。自社工場で「マグロの中落ち」や「ネギトロ」に加工し、水産業者や地場スーパーに販売していた。地元で海鮮料理店も運営し、2009年8月期の年売上高は約7億1000万円を計上していた。
しかし、2021年末に当社を牽引してきた前代表が死去。世界的なマグロ需要の高まりやコロナ禍の長期化、ウクライナ危機に伴う原材料高に急速な円安も重なり仕入れ価格が上昇。事業継続を断念した。負債は約5400万円。
(2)(有)豆乃屋フーズ(鹿児島県)...1989年の飲食店経営業者。地元でも有数の大型商業施設内に店舗を構え、手打ち式の麺や天然だしにこだわった店づくりで一定の顧客層を得て、2017年6月期には年売上高約1億3300万円を計上していた。
しかし、その後は新型コロナによる休業や時短営業が続き、業績不振が続いた。新型コロナ特別貸付を利用しながら事業を継続してきたが、ウクライナ侵攻や円安による原料相場の高騰で資金繰りが悪化。負債は約1億4000万円。
円安の打撃は、遅く、ジワジワと表れる
こうした事態をエコノミストはどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースのコメント欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏が
「輸入系の企業、内需系の企業はどうしても円安によるコスト増加の影響を受けてしまいます。また、コロナ拡大時の借り入れ増大などによる影響も出てきているとみられます。一方で、輸出企業は円安で増益をもたらしています。つまり、大幅な円安は輸出に強い大企業などには大きなメリットがある一方、内需系で体力のない企業には円安倒産という二極化をもたらしています」
と、中小企業は特に円安の打撃を受けやすいと指摘。そのうえで、
「円安のデメリットは輸入品の価格上昇という形で比較的早期に出てくる一方、メリットは工場の国内移転や為替差益の賃金への還元など、1年程度為替動向よりも遅れる傾向があることにも注意が必要です。当面は円安のデメリットが顕在化する局面であり、円安のメリットを感じられるのは今から半年から1年後であるとみられます」
と、長期的にみていくことの重要性を指摘した。
同欄では、時事通信社解説委員の窪園博俊記者が、
「外為市場では、このところ円安の動きが一服しています。(中略)円安一服の背景としては、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースが今後は鈍化するのではないか、との思惑から、米長期金利の上昇が一服したことも指摘されます。足元では、日米金利差の拡大観測はやや後退しており、目先は、やや円高に振れる余地があるかもしれません」
と、円安の加速が収まりつつあると指摘。しかし、
「もっとも、ファンダメンタルズに目を向けると、日本の貿易収支はなお大きな赤字を計上し、貿易決済に伴う円売りは根強いと言えます。また、米国の利上げペースが鈍化しても、金利差自体はかなり広いため、改めてドル買い・円売りが強まる恐れはあります。円安で打撃を受ける企業にはなお厳しい状況が続くと思われます」
と、今後も厳しい経済情勢が続くとした。(福田和郎)