「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE 15」では、「特にありません」と言って、促しても、改善提案をしてこない部下のケースを取り上げます。
「あまりいい考えが浮かびませんので...」
【上司(課長)】A君。期初の会議で業務改善の提案があれば挙げてくれと伝えておいたが、どうなった?
【部下】はあ...。あまりいい考えが浮かびませんので...。今回は「特になし」ということでお願いします。
【上司】なんだ、不満は言うのに改善提案はないのか。やる気が感じられないな...。少しは考えたのか?
【部下】いくつか考えましたが、おそらく課長の意に沿わないだろうと思いまして。
【上司】ずいぶん消極的だな。そんなことじゃ、職場の改善は進まないぞ。もっと主体性と責任感をもってくれないと困るな!
【部下】しかし、前回の提案も却下でしたし、今回も自信がありませんので...。
【上司】まあ、確かにいつも君のアイディアはいまひとつだからな...仕方ないか...。
【部下】はあ...(どうせ提案しても、いつも課長自身の案で決めないと気が済まないからね!)
部下が提案しやすい環境をつくっているか?
人が育つ企業に共通している要素の一つが、一人ひとりの社員が積極的に業務改善や新規事業・商品、また社内の新制度などについて提案し、上司や組織がそれを積極的に受け入れる風土と仕組みがあることです。
このような企業では、社員の中に、日々の仕事や生活から得た気づきを組織の目的のために活かそうとする姿勢が育ちます。それによって、言われたことだけを行うのではなく、自分で考える力が自然と育つのです。
また、提案されたことが採用されれば、大きな喜びとやりがいになり、それがさらなる成長につながります。多様なアイディアを反映することで、組織自体も成長します。経営者や管理職の発想だけでは得られない、多様な気づきが直接組織や仕事に反映されるようになるからです。
「アイディアがあれば積極的に提案してほしい」と述べる経営者や上司は少なくありません。しかし、多くの企業では、その言葉も空しく、社員が自ら進んで提案するような状況になっていません。
理由は簡単です。提案できる場をつくっておらず、かつ、実際に社員から提案があっても採用されることがほとんどないからです。そうなると、社内には「どうせ言ってもムダだ」という意識が浸透してしまうのです。
今回のCASEのように、「部下からの提案はいつもイマイチで取り上げにくい」と考えている経営者や上司もいます。しかし、幹部の意向に完全に沿った提案でなければ採用しないのなら、そもそも社員から提案を募る意味がありません。
では、部下からの意見や提案を積極的に取り入れようとしている企業では、どのような工夫や取り組みをしているのか――。<「特にありません」。促しても、改善提案をしてこない部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE15(後編)】(前川孝雄)>で解説していきます。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。