滝沢秀明・副社長の電撃退任に思う...カリスマ創業者からの事業継承の難しさ(大関暁夫)

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   ジャニーズ事務所を巡る不協和音的な動きが、世間をにぎわせています。3年前に創業者である故ジャニー喜多川氏直々の指名による「後継者」として、タレントを引退し、マネジメントに専念した滝沢秀明氏が、突如、関連会社ジャーニーズアイランド社長とジャニーズ事務所副社長を退任し、ジャニーズグループから離れるという発表がありました。

   そしてその3日後には、ジャニーズの新たなエースグループとも言えるキングアンドプリンスのメンバー3人が、グループ脱退。事務所を退所することが発表され、ジャニーズファンならずとも、注目せざるを得ない大きな話題となっています。

  • カリスマ創業者からの事業継承は難しい(写真はイメージ)
    カリスマ創業者からの事業継承は難しい(写真はイメージ)
  • カリスマ創業者からの事業継承は難しい(写真はイメージ)

マネジメントへの異動からわずか3年で

   滝沢氏に関しては、ジャニー喜多川氏の後を継ぐ形で、主に若手チームであるジャニーズ・ジュニアの育成と、そこからの新グループのデビューを担当する関連会社の社長という要職にありました。

   ジャニー喜多川氏とその実姉でジャニーズ事務所の実務的な経営を担ってきたメリー喜多川氏の共同運営体制の後継者として、滝沢氏は、ジャニーズ事務所社長を受け継いだメリー氏の実娘ジュリー喜多川氏との新たな二人三脚体制で、新ジャニーズ事務所をリードしてきました。

   しかし、マネジメントへの異動からわずか3年、19年のジャニー氏の死去、さらには21年のメリー氏の死去による完全新体制移行からはわずか1年での電撃退任劇となりました。

   さらに申しあげれば、滝沢氏の退任発表から3日後、キングアンドプリンスのメンバー3人の退所が発表されたことで、その不協和音の大きさを推し測る材料になったように思うのです。

   と申し上げるのは、突然の事務所発表が行われた理由として、ジャニーズ事務所のウェブサイトで、「然るべき時間帯に皆様へのお知らせを予定しておりましたが、準備を進める中で憶測による情報が先行して流れる可能性がございましたので、急遽、お知らせするタイミングを早めることといたしました」と公言したことにあります。

   組織管理の観点では、限られた内部の人間以外に知り得なかったトップシークレットが外部に事前に漏れていたことは、問題であると考えます。また、一般論で言えば、要職にある人材の流出、機密情報の漏洩は、組織内部の亀裂や経営に対する不平不満などと、かなりの確率で関連があるものです。それゆえ、今回のジャニーズを巡る二つの「事件」は、カリスマ経営者亡き後、後継者による組織運営の難しさを示唆しているように思うのです。

企業経営の透明性を高めるには

   社内に不協和音があるのだとすれば、その原因として、カリスマ創業者から事業を引き継いだ後継者の組織マネジメントを疑ってみる必要はあるでしょう。

   一般的に、カリスマ創業者からの事業継承は、非常に難しいものです。

   創業者であり、カリスマであるからこそ人一倍求心力があるわけで、後継者がこれをマネて、強引なマネジメントをして、社内外から受け入れられずに求心力を失ってしまったという例を、私は目の当たりにしたことがあります。

   もちろんジュリー氏がそのケースにあたるか否かは分かりませんが、オーナー系会社のオーナー経営者はおうおうにして、その立場の強さゆえ、普通の指示でも本人の意図以上に強引に見えてしまうことは多少なりともあるのではないかと思うのです。

   ならば、これをうまくハンドリングしつつ、自身のマネジメントに客観性を持たせことが肝要であり、そのために経営を第三者の目にさらし、透明性を高めるという方法は大いに検討の余地があろうかと思います。これはまた同時に、組織に自浄作用を持たせることにもつながるでしょう。

   そこで、考えられるのは、究極は株式公開して、第三者である株主から、経営に対する監視を強めてもらうという方法があります。

   しかし株式公開は、その維持コストや労力を考えると良い点ばかりではなく、当面多額の資金調達を視野に入れていない企業においては、ベストな策ではありません。となると、採るべき手段は、経営陣に社外取締役を入れる方法ではないでしょうか。

   できれば、役員の過半を占めるような形で。かつ、委員会制をひいて、重要な幹部人事は社外取締役を中心とした指名委員会で決める方法にするなら、透明性、公平性を社内外に示すことにつながり、社内の不協和音や外からのあらぬ批判の低減にも資するのではないかと思います。

   会社経営において、株主利益が最優先される株主資本主義が当たり前だった時代なら、社長=大株主のオーナー系企業においては、オーナーの意向優先姿勢も許されたわけなのですが、今は時代も変わりました。今や上場企業はじめ、社会的存在を色濃く持つ企業はステークホルダー資本主義が主流であり、ESG投資でもその点が重視されています。

   すなわち、株主だけでなく、従業員、取引先、顧客の利益を均等に視野に入れた経営が求められているのです。ジャニーズ事務所のような社会性の高い企業の場合には、上場企業でなくとも、こういった観点は重視されるべきかと考えます。

   ジャニーズ事務所のめぐる突然の騒動を耳にして、同社がカリスマ創業経営者の後継マネジメントという非常に難しい局面を迎えたという印象を強くしました。同社が今後も発展を続けていくためには、外部の目を入れて、経営の透明性を高めることが最善の策なのではないかと感じた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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