日本経済のリスクは、当面の物価高から来年の世界経済悪化に
同じ日に公開した2つのリポート「繰り返された米国CPIショックと円安修正の持続性」(11月11日付)と「日本経済はコロナ問題を乗り越え安定成長軌道に:来年は一転して世界同時不況の強い逆風(7-9月期GDP見通し)」(同)で、「米消費者物価指数に対する金融市場の動きは過剰反応だ」として、その先に来る「世界同時不況に目を向けるべきだ」と警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏はまず、今回の日米の金融市場の反応について、
「米国CPI統計に対する金融市場の反応は、やや過剰すぎるように思われる。統計そのものの評価よりも、事前予想との乖離に大きく反応する傾向が強い。(中略)FRBがより重視するのはPCE(個人消費支出)デフレータである。そして、変動の激しい単月の統計で政策を決めることはあり得ない」
と一蹴する。
そのうえで、来年襲ってくる世界同時不況にこそ、目を向けるべきだと訴えた。
「日本経済は現在のところは比較的安定しているものの、海外経済が顕著に悪化すれば、日本経済だけが安定を維持することは難しい。国際通貨基金(IMF)の10月の世界経済見通しで、2023年の実質成長率予測値は、日本がプラス1.6%と米国のプラス1.1%、ユーロ圏のプラス1.0%を上回っているが、主要国の経済が後退局面に入れば、日本だけが安定した成長を維持できる見込みはほとんどない。
海外経済が悪化し、FRBの金融緩和期待が高まる中では、為替市場では急速な円の巻き戻しが生じる可能性があり、それが株価下落を伴って、日本経済に強い逆風となる。震源地ではない日本の経済が他国よりも悪化することは、過去の世界経済悪化時にしばしば見られたことだ」
と、今回の急激な円高への巻き戻しに警戒した。そして、こう結んでいる。
「足元の日本経済は他の主要国よりも安定しているが、それは長く続かないだろう。日本経済にとってのリスクは、当面の物価高から、来年にかけては世界経済の悪化に転じていくことになる」
(福田和郎)