転職先や副業として注目&大学側も求めている「実務家教員」になるには?

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   最近増えている「専門職大学」や「専門職大学院」。そこで教育の中心を担っているのが、「実務家教員」と呼ばれる人たちだ。

   企業などで専門的な実務経験と高度な実務能力を養った人たちが、教壇に立っている。転職や副業として注目されつつある「実務家教員」。本書「実務家教員という生き方」(社会構想大学院大学出版部)は、そのノウハウをまとめた本である。

「実務家教員という生き方」(実務家教員COEプロジェクト編)社会構想大学院大学出版部

   編者は、学校法人先端教育機構の社会構想大学院大学による実務家教員COEプロジェクト。

   プロフェッショナルを育成する「専門職大学院」ではおおむね3割以上の、職業人を育成する「専門職大学」ではおおむね4割以上の教員が、実務家教員でなくてはならないことが法令で定められている。

   一般的な実務家教員のイメージは「仕事をリタイアした実務家のセカンドキャリア」かもしれないが、実際には「パラレルキャリア」として、仕事をしながら教育に取り組む場合も多いそうだ。

ポストはほとんど公募されている

   具体的には、どのような手順で、実務家教員になるのだろうか。大学教員としての就職活動は、ほとんどの場合「JREC-INPortal」という求人情報サービスで教員公募を検索し、そこに自分でアプローチしていく形式をとる。つまり、基本的にすべてのポストで公募されている。

   共通して求められる書面がいくつかある。「教員個人調書(履歴書)」「教育研究業績書」「「担当予定科目のシラバス」「教育研究の抱負」の4つだが、なかでも大切なのが、「教育研究業績書」だという。

   この記載が不十分なため、豊富な実務経験を持つ人が採用面接に呼ばれないケースが多いそうだ。「アカデミックな形式で書く」ことが求められ、細かいところでは、「体言止めは使わない」とか「箇条書きではなく文章化する」といった注意点がある。

「教育研究業績書」の書き方が大切...これまでのキャリアの「棚卸し」を

   実務経験を「構造化しつつ言語化する」例として、以下のような「教育研究業績書」を示している。

【事項】中小企業を対象とした組織開発コンサルティングにおける責任者としての実務

【概要】株式会社〇〇の××部門責任者として、△△地域に所在する中小企業を対象にした組織開発コンサルティング業務に従事した。同企業は当初、~の理由から□□や☆☆といった課題に直面していた。そこで本プロジェクトでは、●●の方法を用いて状況を整理し、その上で従業員に対するヒアリング調査を実施することで、同企業が抱える課題の全体像を分析した。これにより、▲▲や■■など、同社における持続可能性を担保する組織ガバナンスのあり方を提案した。

   1つの項目あたり200~500字程度の分量になる。これを、これまで経験した業務やプロジェクトの分だけ、淡々と記述していく。これまでの自分のキャリアを俯瞰し、捉え直す実務経験の「棚卸し」は、実務家教員を目指すための第一歩だと強調している。

   実務家教員が実際に担当している授業のリストは、各大学のホームページ上に公開されている。検索してみると、専門職大学、専門職大学院だけでなく、著名な一般大学でも多くの科目を実務家教員が担当していることが分かる。

   さらに、教員の氏名で検索したり、各大学のシラバス検索システムから授業の内容を確認したりすることで、自分の分野で採用される実務家教員の水準がイメージできる。

   大学の教員といえば、修士号や博士号を持つ「研究者教員」を思い浮かべるが、最近は、実務家教員の比重が増えている。国の政策がそれを後押ししているからだ。

17人の実務教員の体験談も参考に

   もっとも、実務家教員と言っても、その専門性や業界での働き方はまちまちだ。スペシャリストもいればゼネラリストもいる。実務経験もさまざまだ。そのうえで、2つの共通点を挙げている。

   1つは、各分野において十分な「専門領域のインプット」をしていること。これは単なる知識のインプットではなく、「当該領域の専門家として何らかのプロジェクトに主体的に取り組むことで得られる水準のインプット」を指すという。

   もう1つは、インプットを不断にアップデートしていることだ。ある実務家教員は大学に着任した際、「5年過ぎたら賞味期限が切れてしまうよ」と念を押されたそうだ。いっときの経験談だけで、ずっと食べていけるわけではないのだ。

   本書には、実務家教員としての「教育」「研究」「実務能力の更新」などの章があり、実務家教員になってからの歩み方にも触れている。

   17人の実務家教員へのインタビューがもとになっており、実務領域も国家公務員、メーカー、マスメディア、理学療法、看護、医学、キャリアコンサルタント、土木、建築、広告、企業内キャリア支援、品質管理など幅広い。

   本書をまとめた社会構想大学院では、2018年から「実務家教員養成課程」を開講。6カ月・61時間からなる本過程は、東京・大阪・名古屋・福岡を会場に9期まで開かれ、延べ450人が受講している。オンライン受講もできる。

   受講生の半数が50歳代、その次に60代が多いが、40代も22%、30代も5%いるそうだから、早くから実務家教員を目指す人がいることが分かる。

   業種としては、コンサルタント業、広告業、宿泊や飲食などのサービス業、製造業、教員、情報通信業、金融・保険業、小売業の順に多いという。

   評者の周辺にも第2のキャリアとして、大学の実務家教員になった人は少なくない。自分のキャリアを若い世代に伝承することは、やりがいのある仕事ではないだろうか。

(渡辺淳悦)

「実務家教員という生き方」
実務家教員COEプロジェクト編
社会構想大学院大学出版部
1650円(税込)

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