2022年11月8日に投開票が行われた米国中間選挙で、バイデン大統領率いる民主党が予想以上に善戦。トランプ元大統領の共和党が大勝して、全米が「red wave」(赤い波)に覆われる、という事前予想を覆しています。
歴史的なインフレでバイデン政権への批判が集まり、野党・共和党に追い風が吹くとされるなか、なぜ想定外の結果となっているのでしょうか。「neck and neck」(接戦)が報じられる米選挙報道を追ってみました。
トランプ氏、一夜にして天国から地獄へ? 米メディアの手のひら返しがすごい
大統領選挙から2年後に行われる米中間選挙では、政権与党が議席を減らす傾向にあります。今回もインフレや巨額のウクライナ支援への批判が強まり、支持率が40%台と低迷するバイデン政権は、かなりの苦戦が予想されていました。
逆に、中間選挙を前にして、急激に存在感を高めていたのがトランプ前大統領です。2024年大統領選挙への出馬を匂わせつつ、同党が選挙に大勝して、シンボルカラーの「赤色」が米国を覆う「red big wave」(赤い大波)を巻き起こす、と自信満々に宣言していました。
ところが、ふたを開けてみたら、共和党は予想外の苦戦に。開票前は「トランプ次期大統領」を予言していたメディアが次々と、「トランプ氏の敗北」を報じ始めました。
A Shock for Trump - The Red Wave That Wasn't
(トランプ氏にとってショック!赤い波は起きなかった:ブルームバーグ通信)
ブルームバーグ通信は、トランプ氏を「There was one surprising loser」(予想外の敗北者)と言及。選挙には出ていないものの、トランプ氏と彼が掲げる「過激な政治思想」に国民の審判が下された、としています。
トランプ氏の応援団とされていた保守メディアのFOXニュースでさえ、「'Red Wave' Turned Into 'Absolute Disaster'」(「赤い波」は「大変な災害」になった)と、トランプ氏の敗北を認める専門家のコメントを紹介。多くのメディアが「赤い波どころか『ripple』さざ波だった」と表現していて、「ripple」(さざ波)がトレンドになっていました。
ちなみに、この「ripple」(さざ波)という単語はTOEICにもよく登場します。写真の風景を解答するリスニング問題で、「川面にさざ波がたっている」といった例文で出題されますが、TOEICの頻出単語から、一気に今年のトレンドワードに昇格しそうな勢いです。
面白かったのは、米CNNテレビの「From 'red wave' to Trump blame」(「赤い波」から「トランプ批判」まで、メディアはどう伝えたのか」)というタイトルの選挙報道。開票が進み、次第に「共和党劣勢」が明らかになるにつれて、それまで高らかに「赤い波の到来」を報じていたメディアが、次々と「トランプ批判」に舵を切る様子を生々しく報じていました。
メディアでさえ予測できなかったトランプ氏の苦戦。ニューヨークタイムズ紙が「Not Trump's Night」(トランプ氏が主役になれなかった夜)と称しているように、トランプ氏にとっては、一夜にして天国から地獄に突き落とされた「歴史的な一夜」となったことでしょう。メディアの変わり身の早さにも驚かされた一夜でした。
トランプ氏が勝てば、プーチン氏が喜ぶ?「皮一枚の接戦」
予想外の「善戦」が報じられるなか、早々とバイデン大統領の「'good day' for democracy」(民主主義にとって良い日だった)というコメントが世界中に流れました。不正選挙を唱えるトランプ氏の影響力を抑えたことへの安堵が広がっているようですが、まだまだ戦況は予断を許しません。
各国メディアが「neck and neck」(互角の戦い)、「go down to the wire」(デッドヒートを繰り広げる)と報じる「接戦」であることは間違いなく、最終的な選挙結果が出るまで数週間かかる、という予想も出始めました。
そんななか、不気味な動きを感じさせるのが、誰よりもトランプ氏の復活を待ち望んでいるのはロシアのプーチン大統領だ、という報道です。
先日、「プーチン大統領の料理長」とされる側近が、米国の中間選挙に介入していることを明らかにしたばかり。異例ともいえる「介入宣言」は、トランプ氏の復活を支援することで米国のウクライナ支援をやめさせる狙いだ、と報じられています。
一夜にして、「次期大統領候補」から「戦犯」に凋落してしまったトランプ氏。少なくとも、トランプ氏をめぐる報道の潮目が変わったことは間違いないようです。
それでは、「今週のニュースな英語」は「neck and neck」を使った表現です。直訳すると「首と首」。競馬でゴールに到達する時、首の差で勝負が決まることから「接戦」「僅差」を表す慣用句で、ビジネスの場面でもよく使われます。
The two runners were neck and neck
(二人のランナーは接戦だった)
Two competitors are neck and neck
(競合する2社は負けず劣らずだ)
当のトランプ氏は、選挙に勝ったら自分の功績だが、負けても「I should not be blamed at all」(批判される筋合いはない)と相変わらず自分勝手な態度。今回の結果がどうであれ、2年後の米大統領選に向けて戦いの火ぶたが切って落とされました。
(井津川倫子)