2022年11月8日に投開票された米中間選挙は、「ビッグ・レッド・ウェーブ」(共和党大躍進)という大方の予想に反し、民主党が粘り腰を見せ、全米で大接戦となった。
もっとも、トランプ前大統領が強い影響力を持つ共和党が、連邦議会下院では過半数を奪い返す勢いだ。そこで、国際社会が注目するのが「米国のウクライナ支援が縮小するのではないか」という懸念だ。
いったい、どういうことか。主要メディアの報道を読み解くと――。
米国世論にも「ウクライナ支援疲れ」見受けられる
まだ、米中間選挙の開票結果が確定しないなか、下院では共和党が過半数を奪還する勢いと伝えられた11月10日(日本時間)、日本の主要新聞5紙が社説で米中間選挙を取りあげた。
読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、東京新聞だ。5紙すべてが共通して懸念を表明したのが「共和党内には景気悪化を踏まえ、ウクライナ支援の規模縮小を求める動きがある」(毎日新聞)ということだった。
たとえば、読売新聞社説(11月10日付)「米中間選挙 議会は国際的責務忘れるな」はこうクギを刺した。
「国際社会にとっての関心事は、米国がウクライナに対する大規模な軍事・人道支援をこれまで通りに続けられるかどうかだ。ウクライナ危機の長期化を受けて、米国世論にも『支援疲れ』が見受けられる。共和党の有力議員からは『米国の支援は無制限ではない』という発言も出ている。
政府や議会が国民を最優先するのは当然だが、米国政治の動揺でロシアが侵略の成果を手にする事態になれば、自由と民主主義に基づく国際秩序が揺らぎ、世界全体が影響を受けることになる。
バイデン政権はこの問題で議会の協力をしっかり取り付け、ウクライナを支援するための予算確保に努める必要がある。議会も超党派での支持を続けるべきだ」
産経新聞主張(11月10日付)「米中間選挙 『内向き』政治を回避せよ」は、より具体的にこう訴えた。
「共和党内のトランプ支持派を中心に『米国第一』の立場から米国の対ウクライナ軍事支援を見直し、米国内の懸案に予算を振り向けるべきだという意見が広がっているためだ。
バイデン政権はこれまで、ロシアに侵攻されたウクライナに総額182億ドル(約2兆7千億円)超に上る支援を実施してきた。
だが、下院では選挙前、共和党議員の約3分の1を占めるトランプ派の議員が支援法案の採決などで反対を表明した。今回の選挙結果を受け、トランプ氏に近い共和党議員は増える見通しだ。政権への『内向き圧力』が高まるのは避けられそうにない」
ロシアも「バイデンの魔法は終わった」と期待
各紙が懸念するのは、トランプ系議員が上下院に強い影響力を持ちかねないからだ。
11月10日(日本時間)現在、米連邦議会の上下院選に共和党から出馬し、トランプ前大統領の推薦を受けた候補のうち、8割超が当選を確実にしている。日本経済新聞によると、日本時間9日午後6時の段階で、上院選のトランプ氏推薦候補26人のうち16人が、下院選では同162人のうち139人がそれぞれ当選を確実にした。
トランプ氏は、大統領在任中に「米国第一」を掲げるあまり、現在ウクライナを軍事支援しているNATO(北大西洋条約機構)からの離脱を検討した人物だ。そのトランプ氏が11月15日、2024年の大統領選出馬を表明する見通しだ。
下院でトランプ系議員が大幅に増えた場合、大統領再選を目指すトランプ氏と連動して、ウクライナ支援をめぐり、バイデン政権に揺さぶりをかけてくる可能性がある。
東京新聞(11月10日付)「米中間選挙、下院で共和党多数派奪還の勢い トランプ前大統領の足音迫る、ウクライナ支援などに影響懸念」がこう伝える。
「民主党が下院で少数派となれば、重要法案を通せなくなる。ウクライナへの支援見直しにつながり、ロシアへの国際的な包囲網にも亀裂が生じかねない。『米国第一』を掲げるトランプ氏の影響力が強い共和党内では、内政を重視するべきだという意見が浮上しているからだ。
米議会は3回にわたって追加支援の法案を超党派で可決してきたが、下院の反対票は今年3月の3票から、5月には57票に増加。すべて共和党議員だった。(中略)米政府の支援は総額182億ドル(約2兆7000億円)にのぼり、国際支援を主導してきた。縮小すればウクライナの防衛に影響する。
ロシアによる侵攻を阻止できなければ、『世界中で武力による現状変更が横行する』(ブリンケン国務長官)という懸念が現実味を帯びる」
実際、ロシアも今回の中間選挙の結果に期待しているという。産経新聞(11月10日付)「米中間選挙 露、ウクライナ支援低下に期待」はこう書いている。
「米中間選挙の行方は、ウクライナ侵略を続けるロシアも注視している。財政規律を重視する共和党が躍進した場合、米国のウクライナ支援の規模や速度が低下する可能性があり、各地の戦線で劣勢に立つ露軍にとっては有利となるためだ。
『米中間選挙での民主党の失敗により、バイデン政権の魔法は終わる。ウクライナは米国からの支援を失うだろう』
ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ南部ヘルソン州の親露派勢力幹部、ストレモウソフ氏は11月9日、交流サイト(SNS)でそう指摘した。同州では現在、州都ヘルソンを巡る攻防が焦点化している。同氏は共和党が勝利してウクライナ軍の攻勢が弱まることに期待感を示した形だ」
共和党トップ「ウクライナに『白紙小切手』を渡すことにはならない」で波紋
各紙が指摘するのが、下院で共和党が多数派となった場合、共和党の下院トップのケヴィン・マッカーシー院内総務が下院議長になるとみられることだ。マカーシー氏は10月18日、政治専門メディアにこう語ったことが波紋を呼んだ。
「不況にあえぐことになる米国民が、ウクライナに無制限に金を使わせることはないだろう。ウクライナは大事だが、それだけではいけない」「共和党が議会を掌握した場合、ウクライナに『白紙小切手』を渡すことにはならないだろう」
米国の憲法では、下院はすべての予算決議を行う。下院議長となったマカーシー氏が、どの法案を採決にかけるか決める大きな権限をもつことになる。「ウクライナ支援縮小」も含めて、下院を舞台にバイデン政権は窮地に立たされることになりそうだ。
「2023年1月の新会期には、マッカーシー氏の下院議長が有力視され、委員会運営の主導権も握る。共和党は法的拘束力のある召喚状を駆使し、バイデン政権を追及する方針だ。
最も注目されるのはバイデン大統領の次男ハンター氏を巡る疑惑だ。ハンター氏は、バイデン氏が副大統領在任中にウクライナの天然ガス会社役員や中国の投資ファンド会社の取締役を務め、外国との『癒着』がバイデン氏の外交に影響を与えた可能性が指摘されてきた」
ハンター氏には銃購入の際、麻薬中毒がないと偽った疑惑や、税務処理の不正疑惑などもあがっている。また、毎日新聞は、トランプ氏への捜査を指揮しているガーランド司法長官や、移民急増の元凶になったとしてマヨルカス国土安全保障長官も共和党の「標的」に挙がっているとしている。
身内の民主党急進左派からも、ウクライナ支援を疑問視する声
毎日新聞(11月10日付)「バイデン政権、難航必至 『奪還』共和、疑惑追及へ ウクライナ支援縮小か」によると、共和党の追及はかなり厳しそうだ。
そして、最終的には、共和党は「トランプ氏が2度も弾劾裁判(いずれも無罪判決)を受けた報復」として、バイデン大統領の弾劾訴追手続きに進める可能性があるという。
共和党からだけではない。ウクライナ支援について、バイデン大統領は身内からも攻撃にさらされる可能性がある、と毎日新聞は指摘する。
「議会はこれまでウクライナ支援について、超党派でバイデン政権に協力してきた。しかし、マッカーシー氏は下院議長就任が見込まれており、協力にブレーキがかかるのでとの見方が出ている。さらに、身内の民主党急進左派からも巨額支援を疑問視する声が挙がっている。侵攻が長引けば、与野党から不満が噴出し、バイデン政権が対応を迫られる可能性がある」
(福田和郎)