財布がどんどん軽く...「実質賃金」6か月連続マイナス! エコノミストどう見ている? それでも、明るい材料ある「世帯収入増と冬のボーナスに期待」

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   現金給与の支給額はそれなりに増えているのに、生活がどんどん苦しくなっている...。

   厚生労働省は2022年11月8日、働く人1人当たりの現金給与額などを示す9月の「毎月勤労統計」を発表したが、「実質賃金」が前年同月より1.3%下回ることがわかった。

   これで実質賃金の減少は6か月連続となり、物価の上昇に賃金が追い付いていない状況が続いている。私たちの生活はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 給料の額が物価高に追いつかない(写真はイメージ)
    給料の額が物価高に追いつかない(写真はイメージ)
  • 給料の額が物価高に追いつかない(写真はイメージ)

2年間で16%も軽くなった財布の中身

   厚生労働省が11月8日に発表した「毎月勤労統計調査 令和4年(2022年)9月分分析結果速報値」のポイントは次の通りだ。

   (1)名目賃金に相当する9月の現金給与額の平均は27万5787円と、前年に比べ2.1%増で、今年1月以来9か月連続の増加となった。そのうち基本給部分にあたる「所定内給与」は24万8910円と1.3%増の伸びだが、残業代などを含む「所定外給与」の伸びが大きく、6.7%増の1万8654円となった。

   (2)現金給与額を、一般労働者とパートタイム労働者に分けると、一般労働者の平均は35万7039円(2.4%増)、パートタイム労働者の平均は9万9939円(3.4%増)だった。

   (3)また、夏のボーナスを支給した事業所の1人あたりの平均額は38万9331円で、前年に比べ2.4%増加した。

   このように給与の支給額は伸びているのだが、実質賃金をみると――。

   (4)そして、物価の変動を反映した実質賃金は、消費者物価指数が前年同月に比べ3.5%も上昇したため、前年同月比で1.3%の減少となった。これは今年4月以来6か月連続の減少。また、実質賃金指数でみると、2020年の平均を100とすると、83.6となる。つまり、2020年の年間平均より、実質で16.4%ポイントも減ったことになるわけだ=図表参照

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(図表)名目賃金と実質賃金の推移(労働者全体)(厚生労働省公式サイトより)

   こうした2年間に16%近くも財布が軽くなる現象は、物価の急激な上昇に賃金の伸びが追いついていない現実を映し出している。

硬直的な労働市場の日本、生産性が上昇しないと...

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名目賃金は上がっているのになあ(写真はイメージ)

   今後も円安やロシアのウクライナ侵攻の影響で、エネルギーや食料品価格の上昇が収まらないが、実質賃金の目減りはこれからも続くのだろうか。今回の発表について、専門家たちはどうみているのか。

   ヤフーニュースのコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミストの渡辺浩志氏が、

「日米のサービスのインフレの格差が拡大しています。サービスインフレは賃金上昇率に比例する傾向。米国では人手不足で賃金上昇率が高まり、サービスのインフレが加速。これを抑えるためFRBは来年末頃まで引き締め的な金融政策を続ける見込みです」

と、米国の賃上げ事情を説明。そのうえで、日本の賃上げが進まない背景をこう解説した。

「日本では硬直的な労働市場の下、生産性の上昇が鈍く賃金は低迷、サービス物価も底這い状態です。持続的な賃金上昇を伴って2%のインフレが定着しない限り、日銀が金融引き締めを行うことはないでしょう。当面、日米の金融政策の溝は埋まらず金利差は縮まらないため、円安が長引きやすい状況です。
また、商品市況が下落する中で輸入インフレが沈静化へ向かえば、円安悪玉論や日銀に政策修正を求める圧力も下火になる可能性があります。結果として日本発の円高圧力がすぐに高まることはないでしょう。
円高に向かうとすれば米国の景気後退や米金利の低下など、米国発のドル安圧力が原因となると思われます」

来月支給される冬のボーナスが夏を上回れば...

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冬のボーナスに期待だ!(写真はイメージ)

   一方、同欄では第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が、

「企業の総人件費を常用雇用者数で割って算出した毎月勤労統計で見れば、9月の名目賃金の伸びが物価上昇に追いついていませんが、同じく本日(11月8日)公表された総務省の家計調査によれば、勤労者世帯の9月の実収入は名目で前年比プラス3.7%、実質でもプラス0.2%増えています。背景には、9月に働く人が増えたことがありそうです」

と明るい数字を紹介した。そして、

「既に公表されている9月の労働力調査によれば、就業者数が前の月からプラス13万人増えています。このため、1人当たりの実質賃金は減ったものの、働く人が増えたため、世帯平均で見た実質実収入が増えているという構図です」

と説明した。

   同欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部 主席研究員の小林真一郎氏も明るい兆候を紹介した。

「今回は夏のボーナス支給実績も発表されました。昨年夏の前年比0.8%減少、昨年冬の同0.1%増加に対して、同2.4%増加と、コロナ禍から景気が回復するにつれて、徐々に状況が改善しています。1人当たりの支給額は約38.9万円で、これはリーマンショック前の2008年夏の約40.7万円以来の高い水準です」

と、ボーナス支給の好転を評価。

「ただし、この数字は、賞与が支給された事業所における1人当たりの平均です。より実態に近い全労働者1人当たり平均(賞与支給のない事業所を含む)では、前年比3.8%増加に伸び率が高まります。夏のボーナスが順調に増加したことに加え、雇用情勢の改善が進んでいることや、物価上昇への配慮を示す企業が増えていることを勘案すると、来月に支給される冬のボーナスでは夏を上回る伸びとなる可能性があります。物価上昇によって実質値が低迷することは避けられませんが、それでも今後の個人消費とっては明るい材料です」

と、冬のボーナス事情に期待を込めた。

(福田和郎)

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