半導体戦略10年間の工程表
「週刊東洋経済」(2022年11月12日号)は、「半導体 次なる絶頂」と題し、日本勢復活の動きをレポートしている。
「10年間でいつ何をするか、半導体戦略の工程表がもうできている」と、自民党の半導体戦略推進議員連盟会長の甘利明衆議院議員は同誌の取材に明かしている。経済産業省が中心に作った工程表は非公開だが、そのベースとなる3つのステップは示されている。
ステップ1は、半導体の製造拠点を国内に確保することだ。世界最大手の半導体受託製造企業・TSMC(台湾積体電路製造)を政府主導で熊本に誘致したのはその一環だ。
ステップ2は、最先端のロジック(演算用)半導体を米国と開発する。「ビヨンド2ナノ」と呼ぶ次世代半導体技術の確立を狙う。
ステップ3は、2030年代を見据え、低消費電力かつ高速データ処理を可能にする半導体技術の実現や、量子コンピューターを社会インフラにすることなどを目標にしている。
30年代前半までの10年間で10兆円規模を半導体産業に投じる内容と見られるが、「ここまでハードルの高い技術の獲得に大金をつぎ込むのか」と財務省に渋られるのを恐れ、経産省は工程表の公表には否定的だという。
それというのも、「ビヨンド2ナノ」の最先端半導体で、日本が再び世界のトップへと躍り出る大胆な計画だからだ。
TSMCが建設を進める熊本の新工場のルポが興味深い。
23年9月の完成を目指し、約86億ドル(1兆円超)が投じられ、政府は4760億円の助成金を出す。日本で初となるTSMCの工場で、運営を担う子会社の「JASM」には、ソニーグループやデンソーが出資している。
工場建設中の菊陽町では、直近1年間の地価上昇率が31.6%と全国トップに。TSMCとの取引を狙う企業が土地争奪戦を繰り広げ、土地価格は言い値で決まる状態だという。
新工場の経済波及効果は、今後10年間で4.3兆円と見込まれ、熊本の県内総生産を年間3%ほど押し上げる予想だ。その規模は、県内の農林水産業や金融・保険業と同程度というから大きい。
◆生まれ変わったルネサスエレクトロニクス
国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスの近況にも触れている。
赤字に苦しんでいたのは過去のもので、3度の大型買収により生まれ変わったというのだ。19年12月期に59億円の最終赤字だった業績は、22年12月期に約2700億円の過去最高純利益を見込む。売上高もわずか3年で倍増し、約1兆5000億円になる見込みだ。
買収した米IDTのノウハウを生かし、「受託製造」からの脱却が進んでいるという。30年までに、時価総額を現在の6倍に引き上げる目標を掲げている。14兆~15兆円になると、NTTやソニーグループなどに並び、国内ではトヨタ自動車に次ぐ2番手グループに入る、野心的な数字だ。
同誌では、日本の牙城とされるパワー半導体と半導体の製造装置メーカーの動きも紹介している。「日本の半導体産業は凋落した」と言われて久しいが、明るい兆しも見られ、株式の投資対象として今後伸びそうな25社を取り上げている。
知名度は低いが、シェアは非常に高い会社も多く、注目したい。