イーロン・マスク氏、「ツイッター」買収完了...注目は「経営再建」への手腕、「言論の自由」めぐるプラットフォームのあり方

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   半年にわたりごたごたが続いた短文投稿サイト「ツイッター」の買収問題が2022年10月27日、決着した。

   米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)による手続きが、当初の契約通り、ツイッター株を総額約440億ドル(約6.4兆円)で買い取った。

   ネット交流サービス(SNS)上の「言論の自由」をめぐり、1日当たり2億人超が利用するプラットフォームとして、半ば公的な性格を有するツイッターがどのように運営されていくのか注目される。

  • マスク氏によるツイッター買収、いやおうなく今後に注目が集まる(写真はイメージ)
    マスク氏によるツイッター買収、いやおうなく今後に注目が集まる(写真はイメージ)
  • マスク氏によるツイッター買収、いやおうなく今後に注目が集まる(写真はイメージ)

4月の買収契約から、10月末の手続き完了まで...時間を要した理由

   マスク氏は2022年4月、ツイッター買収契約を結んだ。しかし、事態はその後、二転三転する。

   マスク氏は7月になって、「ツイッターの偽アカウント比率が、同社が公表する5%未満より多いのではないか」との理由で、買収手続きの打ち切りを宣告した。

   ツイッター側はこれに反発し、契約通り買収するよう裁判所に提訴するとともに、9月には臨時株主総会でマスク氏の買収を承認し、契約履行を迫った。

   泥沼化の気配が漂いはじめた10月上旬、マスク氏は一転して「契約通りの条件で買収する」と表明。裁判所は10月28日までに買収手続きを完了するよう求めて審理を先送りしており、今回、滑り込みセーフで買収を終えたかたちだ。

   マスク氏が方針をコロコロ変えた理由について、市場では、買収契約後のツイッター株価下落を受け、値下げ交渉を狙ったとの声が多い。

   ただ、裁判はマスク氏が不利の状況だったことから、買収を強制されるか、10億ドルとされる違約金の支払いを命じられる可能性が高いとみられ、マスク氏も買収を契約通り実行せざるを得なかったようだ。

ツイッターの経営再建へ...人員削減を計画、サブスクを拡充

   そもそも、ツイッターが買収提案を受け入れることになったのは、経営が不振だからだ。

   2013年の株式上場以来、純損益が黒字だったのは18、19年の2回しかなく、利用者数でも、フェイスブックやインスタグラムを傘下に持つ米メタ(世界のグループの月間利用者37億人)、10億人以上が利用する中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に差をつけられている。

   ツイッターは売り上げの約9割を広告に頼っており、景気減速の懸念が広がる中で、ネット広告への逆風が強まり、先行きには暗雲が垂れ込めている。

   マスク氏はさっそく、経営再建に向け動いた。

   パラグ・アグラワル前CEOら取締役9人が解任し、唯一の取締役となったマスク氏がCEOとして絶対権限を握った。米大手紙ワシントン・ポストは買収決着前の10月20日、マスク氏が従業員の75%削減を検討していると書き、買収完了後の11月3日には米通信社ブルームバーグが「人員半減を計画」として、約3700人の削減を計画していると報じた。そのうえで、買収前から伝えられていた通り、従業員の半減計画に着手したと報じられている。

   リストラの一方、脱広告依存・収入源の拡大に向け、サブスクリプション(定額利用)サービスの拡充に注力する方針を示している。

   たとえば、著名人や企業の公式アカウントが本物であることを示す青色の認証マークを有料化する検討も進めているという。認証バッジは、アカウントに付けられる青いチェックマークで、なりすましを防ぐためにツイッターが、必要な審査を経て無料で提供しているものだ。

   今後は、北米などで展開している月額4.99ドル(約730円)のサービス「ツイッターブルー」(投稿した内容を後から編集したり、長い投稿を読みやすくしたりできる)を改定し、認証バッジの利用を含め、料金を8ドルに引き上げる方向とされる。

「投稿規制」の問題、やはり緩むのか?...「投稿監視評議会」設置、幅広く検討

   経営と並ぶ大問題が、投稿の規制だ。

   ツイッターは各国首脳や政治家、財界人なども利用するプラットフォームとして、半ば公共財ともいえる存在。それだけに、虚偽情報やヘイトスピーチを防ぐには運営サイドによる投稿規制が不可欠だ。

   しかし、そもそも、マスク氏は「言論の自由」を盾に、「規制反対」の立場からツイッター買収に動いた経緯があり、買収完了で、「規制を緩めるのでは」との警戒感が広がっている。

   これについてマスク氏は、幅広い観点から規制のあり方を協議する「コンテンツモデレーション(投稿監視)評議会」を設置すると表明した。

   もっとも、「評議会を開く前に、重要な規制変更を決めたり凍結したアカウントを復活させたりすることはない」と言明。「さまざまな信念を健全に議論できるデジタル広場が必要だ。ツイッターを何でもありの地獄絵図にすることはあり得ない」と適切な投稿規制を続ける姿勢も示している。

   ただ、経営再建とも絡み、管理が緩む懸念はむしろ強まっている。

   ツイッターは、2016年の米大統領選で外国勢力による選挙介入の舞台になった反省から、偽ニュース対策など、投稿管理部門の人員増強を進めてきており、従業員数は2016年末からほぼ倍増している。

   人員を大きく減らすマスク氏の方針は、管理を極力なくすという意味になる。

トランプ氏のアカウント復活も取りざたに

   そして、マスク氏自身のキャラクターも、こうした不安を助長する。

   10月上旬、「ウクライナが勝利する可能性は低い」として、ロシアとの停戦を呼びかけるツイートをして世論の猛反発を浴びた。また、自身の宇宙企業「スペースX」の衛星通信サービス「スターリンク」のウクライナへの無償提供を中止する可能性を示唆して1日で撤回するなど、言動は相変わらず不安定だ。

   2021年のトランプ氏支持者による米議会襲撃事件を受け、事件を扇動するようなツイートを重ねたトランプ氏のアカウントは永久凍結されているが、マスク氏は「ツイッターはサンフランシスコに本社があり、左派に強く偏っている。もっと公平になる必要がある」と述べたこともあり、トランプ氏のアカウント復活も取りざたされる。

   他方、例えば巨大IT企業に違法コンテンツの排除を義務付ける規則を導入している欧州連合(EU)は、ツイッターに規則順守を求めており、こうした規制当局の動きも、ツイッターの経営を大きく左右する。

   言論のプラットフォームとしての半公的な機能の全うと、経営再建をどう折り合いをつけるか。カリスマ経営者の手腕が問われる。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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