「ギグ・エコノミー」での請負労働者が搾取されかねない問題
最後に、機械学習が本格的に実用化されて以降の第3次AIブーム下での資本主義について考察している。
そこで、浮上してきたのが、いわゆる「ギグ・エコノミー」の問題だ。「ギグ・エコノミー」とは、オンライン上のプラットフォームなどを通じて、短期的な労働を受ける市場のことだ。
この「ギグ・エコノミー」の下では、ネットワーク上の外部労働市場のデータが潤沢となる一方で、企業内の仕事のシステム化と柔軟なロジスティックがAI化によって洗練されれば、外部から必要な人材を迅速に調達できる。そして、その人材にあらかじめ決まった仕事を確実に割り振ることも可能になるだろう。
ここで個別の仕事を請け負う労働者は、雇用労働者とは異なり、指揮命令に服従する必要はない。結果だけを求める請負契約で、十分ということになる。しかしその代わり、生活を保障されることもない。
請負契約による労働取引が今よりもさらに一般化すれば、情報的に不利な立場にある受注者たる労働者が搾取されかねない。
さらに、このような請負労働者、新たな時代のフリーランサーたちは、かつての雇用労働者に比べて、企業から保護を受けられない半面、個人情報の方はもれなく吸い出されるだろう、と予想している。
プライバシー保護のため、フリーランサー組合が必要になってくるかもしれないという。インボイス制度の導入をめぐり、フリーランサーが団結する動きがあるが、こうした事態を先取りしているのかもしれない。
稲場さんはもう1つ、ある予想をしている。
株式投資の最も合理的な方法として、インデックスファンドを買うのが流行している。しかし、機械学習によって個人投資家のほかに、大口投資家まで含めて、みんなが同じことをしたら......。AI時代にはそうやって、「バブル」が発生する可能性が増えるというのだ。稲場さんは哲学者だ。経済学者の予測を知りたいと思った。
(渡辺淳悦)
「AI時代の資本主義の哲学」
稲場振一郎著
講談社選書メチエ
1870円(税込)