AI時代に資本主義について論じる本書「AI時代の資本主義の哲学」(講談社選書メチエ)が気になった。いったい、どういうことなのか? 企業で働くビジネスパーソンにとって、「資本主義」は大前提であり、空気や水のような「当たり前」のこととして受け入れているに違いない。本書は、資本主義の概念の変遷をたどりつつ、その未来を展望した本である。
「AI時代の資本主義の哲学」(稲場振一郎著)講談社選書メチエ
著者の稲場振一郎さんは、1963年、生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。岡山大学経済学部助教授などを経て、明治学院大学社会学部教授。専門は社会哲学。著書に「不平等との闘い」「経済学という教養」などがある。
「AI時代の~」という枕詞に魅かれて手に取ったが、「はじめに」で、主題はAI時代の「資本主義の哲学」だと書いている。少し肩透かしだったが、「AI時代の資本主義」についても論じている。
資本主義とは「イノベーションが恒常化した市場経済」
前半は、アダム・スミスやマルクスの議論を紹介しながら、資本主義の概念について、まとめている。マルクスは資本主義的市場経済が資本主義的階級社会を生み、資本家が支配階級となって労働者を搾取する、と論じた。そこでは「マイナスの評価語」の意味すら帯びていた。
この資本主義vs.社会主義の対立の図式は、冷戦崩壊まで続いた。いまや、より価値中立的な言葉になり、資本主義は同時に、近代社会そのものと同一視されるようになったという。
経済学者シュンペーターは、イノベーションつまり技術革新こそがダイナミックな経済としての資本主義の中核をなすものとして捉えた。
さらに、稲場さんは社会主義体制の崩壊という歴史的経験を踏まえて、資本主義を「イノベーションが恒常化した市場経済」と位置づけている。
なぜ、社会主義は資本主義に匹敵するイノベーションの実績を上げられなかったのか。こう説明する。
「資本主義体制での民間営利企業部門における、競争圧力からくるイノベーションへの動機づけが、社会主義におけるそれを大いに上回ったのだ」
独占的地位を享受したいという企業の動機が、イノベーションの源泉になったと指摘する。