上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、「JT」の略称で知られる日本たばこ産業です。
日本人男性の喫煙率を見ると、昭和41年(1968年)には83.7%と非常に高い水準でしたが、健康志向の高まりに伴い、50年後の平成の終わり(2018年)には27.8%まで下落。国内たばこ市場は縮小の一途ですが、JTが就職人気企業の一角を占めているのはなぜなのでしょうか。
2兆円超の売上収益を安定的に生み出す巨大企業
それではまず、JTの近年の業績の推移を見てみましょう。
JTの売上収益(IFRS)はここ数期間で波がありますが、2兆円台という巨額な収益を安定してあげています。2021年12月期には2兆3000億円台に乗せる好調です。
営業利益は微減傾向で、営業利益率は2017年12月期の26.2%から2021年12月期の21.5%まで右肩下がりとなり、4期間で4.7ポイント悪化しています。
なお、JTは近年積極的なM&Aを行っており、調整後営業利益(営業利益から買収に伴い生じた無形資産に係る償却費、のれんの減損損失、リストラクチャリング収益及び費用等を除いたもの)は、2021年12月期に6104億円にまで伸びています。
2022年12月期の期末予想は、第2四半期決算時と第3四半期決算時に上方修正を行い、売上収益が2兆6680億円、営業利益が6490億円と前期比で増収増益となる見込みです。
これを受けて2022年10月31日には、2022年12月期の1株当たり配当予想(年間)を150円から188円に上方修正。11月1日の株価は急騰し、2698円の年初来高値をつけています。
利益の7割を生み出す「海外たばこ事業」
JTの事業は「国内たばこ事業」「海外たばこ事業」「医薬事業」「加工食品事業」で構成されています。
2021年12月期の売上高構成比は、「海外たばこ事業」が1兆4821億円で66.5%と大半を占め、「国内たばこ事業」が5198億円で23.3%、「加工食品事業」が1472億円で6.6%、「医薬事業」が804億円で3.6%です。
調整後営業利益構成比でも、「海外たばこ事業」が4544億円で69.7%が最大で、「国内たばこ事業」が1824億円で28.0%、「医薬事業」が111億円で1.7%、「加工食品事業」が40億円で0.6%にとどまっています。
JTにおける海外たばこ事業の割合は高く、「海外事業を運営するグローバル企業」であるといってよいでしょう。国内たばこ事業が占める割合は全体の3割から4分の1程度と小さく、今後もより縮小していくものと見られます。
なお、ベーカリー事業を展開する「サンジェルマン」および同社子会社は、JTの加工食品事業のグループ会社でしたが、2022年12月1日にクリエイト・レストランツHDに売却予定です。
平均年収897万円、平均年齢43歳
JTはM&Aを重ねて海外事業を拡大しており、2016年12月末に4万4667人だった連結従業員数は、海外たばこ事業の買収で2017年12月期には1万3296人増加。2018年12月期にも6005人増えて、6万3968人にのぼっています。
しかしその後は、収益性の向上を図って組織のリストラクチャリングを行い、2021年12月末には5万5381人にまで絞り込んでいます。
さらに2022年1月からは、日本市場を含むたばこ事業の本社機能をジュネーブ拠点に統合し、国内工場の廃止やグループ会社の清算を実施。2022年2月の発表によると、たばこ事業およびコーポレート部門に所属する46歳以上の社員1169人をはじめとする希望退職募集等を実施したということです。
JTの従業員数(単体)は、2021年12月末(希望退職実施前)で7154人。平均年齢は43.4歳、平均勤続年数は18.3年。平均年間給与は、897万8793円と高い水準です。
JTの採用サイトを見ると、新卒採用のほか、加熱式・電子たばこデバイスの開発職(電気設計、メカ設計、ソフトウェア・アプリケーション設計、電池開発)などの職種で募集が行われています。
たとえば、開発職(電気設計)の求人では、想定年収として500万円~830万円(地域手当、月30時間の超過勤務手当、賞与込み)が示され、「たばこに対するネガを持つ方は不可」という留意事項が付記されています。
トイアンナさんも「毎年、優秀な学生が応募してる」と紹介
2022年11月1日、就活ライターのトイアンナさんが、ツイッターに
「就活10年支援してきて数千人は就活生を見ましたが、『この会社って毎年、優秀な学生が応募してるんだよね』っていう意外な会社をリプライで紹介していきたいと思います」
と投稿、農林中央金庫やJRAと並び、連続ツイ―トの中でJTも紹介されていました。「男性も産休を取りやすかったり、給与体系が良かったり」と人気の理由が述べられています。
巷ではこんなにタバコ離れが進んでいるのに、なぜそんなに待遇のよいホワイト企業なのか。その理由は、JTは「海外たばこ事業を中心とするグローバル企業」として成長し続けているから、という事実は知る人ぞ知る、なのかもしれません。
(こたつ経営研究所)