「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
知的エリートの頂点に立つコンサル
2022年10月31日発売の「週刊東洋経済」(2022年11月5日号)の特集は、「高揚するコンサル したたかな弁護士 黄昏の税理士」。秀才たちの新たなヒエラルキーの現状をレポートしている。残るのは誰か?
今、知的エリートの頂点に立つのはコンサルタントだ。各職種の平均年収を比較し、コンサルタントが2688万円、弁護士が1437万円、公認会計士・税理士が659万円という数字を紹介している。
若くして年収1000~2000万円という待遇、大企業の役員と渡り合い組織を動かせる裁量の魅力が優秀な人材を引きつけている。
国内のビジネスコンサル市場は2021年の5724億円から26年には8732億円まで拡大する見通しで、企業のDX需要を背景に今後も成長するのは間違いない。
なかでも勢いがあるのは、アクセンチュアだ。日本の人員は12年の4900人から22年の1.9万人に4倍近く拡大。国内コンサルでは最大手で、外資戦略系のマッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループが1000人以下だから、規模の大きさがわかる。
難関大学の学生にとっての「勝ち組」ルートは、コンサルティング会社に就職することだという。今後の転職に備え、汎用性の高いスキルや経験が得られるコンサル会社が、「ファーストキャリア」として魅力だというのだ。
デジタル人材が注目されているが、実は欲しい人材は変わりつつある、と指摘している。それは「デザイン」だ。
アクセンチュア日本法人の江川昌史社長は、美術系の学生の採用をコンスタントに進めている。戦略、デジタル、デザインの3要素が、今後のコンサル会社に求められている、と総括する。
◆売り手市場になった弁護士
新司法試験が導入されてから、「司法試験に受かっても就職先がない」と言われたが、今は「新人を採用できない」ほど、弁護士は売り手市場に転換したという。
弁護士業界では現在、5大法律事務所(西村あさひ、TMI総合、アンダーソン・毛利・友常、森・濱田松本、長島・大野・常松)が大きな勢力だ。
一方、「過払い金返還請求」の特需で伸びた新興勢力の代表が、ベリーベストとアディーレ。司法試験合格者数が年1400人に抑制されるなか、5大+2大新興事務所だけで司法修習修了者の2割以上を採用している。中小法律事務所や企業は深刻な採用難に陥っているのが実情だ。
もっとも、全体数が増えたので、弁護士同士の競争は激しくなっている。
一般民事事件の主戦場はWeb集客へと移っているという。法律相談ポータルサイト「弁護士ナビ」を運営するアシロでは、交通事故や債務整理といった分野で、広告販売をストップしているほどだ。
東洋経済新報社の記者・編集者を経て弁護士になった関谷真也氏は、「資格試験としてみれば、公認会計士の合格率の約10%などと比べると、合格率が50%近い司法試験はまさしく『狙い目』だ」と話し、以前と比較にならないほど、法曹界への門戸は大きく開かれている、とアピールする。
税理士に関しては、23年10月1日からスタートする「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)への対応が課題になりそうだという。
記帳代行などの会社経理を丸投げしている顧問先が、インボイスの確認作業まで依頼してくる可能性があるからだ。当然ながら膨大な事務量になるため、業務体制の見直しなど、やることが山積みだ。どこまで顧客に対応すべきか、悩みの多い税理士業界である。
農協でも不適切販売、流出する職員
「週刊ダイヤモンド」(2022年11月5日号)は、「JAと郵政 『昭和』巨大組織の病根」と題した特集。日本郵政傘下のかんぽ生命保険では不適切販売が発覚したが、全く同じ問題を抱えているのが農協だという。2つの巨大組織の病根に切り込んでいる。
いま、2つの巨大組織から有能な若手職員が流出しているという。たとえば、三重県のJA津安芸では、21年度に職員数235人のうち47人が退職した。中堅若手ばかりを「自爆営業」で苦しめることが原因だという。
かんぽ生命保険で問題になった不適切販売と同様の問題が、農協ではいまだに横行し、しかも農協の不正の方が深刻だと指摘している。日本郵政が扱うのは生命保険が中心だが、農協は生命共済だけでなく、建物更生共済や自動車共済など幅広い商品を扱っており、不正の温床となる領域が広いというのだ。
インサイダー取引が発覚し、辞意を表明した奈良県のJA幹部が半年間も残留し、院政を敷く動きがあると、編集部は問題視している。既得権益を手放さない「老害リーダー」がいることが、2つの巨大組織の共通点だという。
第2特集の「電力崩壊 業界新秩序」も興味深かった。
電力需給ひっ迫と財務悪化という2つの危機に直面する電力業界。11年の東日本大震災までは、東京電力、関西電力、中部電力が「中3社」と呼ばれるトップ3で、このうち首都圏を押さえる東電が絶対王者に君臨していた。だが、その序列は崩れ、実質国有化後の東電は業界序列の外にあるという。
また、15年に設立された火力電力・燃料調達会社のJERA(ジェラ)に注目。東電フュエル&パワーと中部電力の合弁会社だが、発電電力量は国内の約3分の1を占め、業界の「裏ボス」的な存在感が増しているとのことだ。
世界最大級のLNG取扱い量を持つJERAに、多くのエネルギー会社が泣きついてきたそうだ。プロ野球セントラルリーグを冠協賛しているJERAは、もの凄い企業なのである。
バイオ医薬品でも強い米国
「週刊エコノミスト」(2022年11月8日号)の特集は、「これから来る! バイオ医薬株」。コロナが一巡して治験や治療が再開し、これから期待が高まる有望な新薬とバイオ医薬株を総まとめしている。
コロナワクチンで有名になったメッセンジャーRNAを用いた医薬品開発技術は、ワクチン以外にもがん治療や遺伝子治療など多様な分野に応用が見込まれている。
国内でも独自技術でゲームチェンジャーを狙うベンチャー企業が多くある。明治大発ベンチャー「ポル・メド・テック」もその1つ。遺伝子改変した医療用ブタの心臓をヒトに移植することを目指している。
新型コロナウイルスの治療薬・ワクチン開発で、日本は大きく出遅れた。ようやく国産の飲み薬が承認されそうだという。塩野義製薬は9月28日、開発中の飲み薬「ゾコーバ」について、最終段階の第3相治験で軽症・中等症患者の病状改善を早める効果を確認したとの速報結果を発表した。一方、国産ワクチンの登場にはまだ時間がかかりそうだ。
アルツハイマー新薬としてエーザイが米バイオジェンと開発した「レカネマブ」が有望薬として登場しそうだが、適用は軽症者や発症前患者に限られるなど、壁も立ちはだかっているようだ。
そして、米国のバイオ最前線について、大和証券アメリカ医薬品・医療機器アナリストの中桐成美氏が分析している。市場規模の大きい未開拓領域を目指し、肥満症治療薬に大手の参入が見込まれるという。
肥満症患者は世界に約6.5億人存在するが、治療を受けている患者はほんの一部だ。デンマークの製薬大手ノボノルディスクの肥満症治療用の注射薬「ウェゴビー」が、2021年米国で承認され、発売から1年で四半期の売上は12億ドルとなった。
これは、1年分に置き換えると、一気に世界の医薬品売上ランキングの20番目(新型コロナウイルス感染症関連を除く)となり、同社の株価は1.3倍に拡大した。各社が肥満症治療薬に参入しそうだという。
このほか、ビオンテック、アステラス製薬、モデルナなどバイオ医薬品株15銘柄について予想。米国企業が圧倒的な存在感を示している。
大阪大学大学院工学研究科の大政健史教授は「バイオ医薬品の研究開発・製造には複雑で高度な知識が求められる。日本でも人材育成が急務だ」と指摘している。
(渡辺淳悦)