岸田政権「総合経済対策」は、バラマキのポピュリズム! エコノミストが懸念...「英国トラス前首相退陣とウリ二つ」「円安加速させ、かえって物価高に」

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   「最初から規模ありきのバラマキ」。岸田文雄政権が2022年10月28日に発表した「総合経済対策」を主要メディアが批判している。

   高騰する家庭の電気・ガス料金の支援など物価高対策が柱だが、「財政規律」を度外視した政策が、首相退陣につながった英国の「ポピュリズム」の失敗にうり二つだという。

   エコノミストの中にも「かえって円安を加速させ、物価高を招く自己矛盾」と指摘する意見もある。どういうことか?

  • 自民党の「恫喝」に屈して「財政規律」路線から変更の岸田文雄首相
    自民党の「恫喝」に屈して「財政規律」路線から変更の岸田文雄首相
  • 自民党の「恫喝」に屈して「財政規律」路線から変更の岸田文雄首相

「3時間で4兆円増えた。『時給1兆円』以上だな」

   報道をまとめると、政府が10月28日に決めた電気・ガス代対策を目玉とする総合経済対策の主な内容は次のとおりだ。

(1)物価高騰への取り組み(12.2兆円)。家庭の電気料金を2割程度軽減&都市ガスの料金を1割程度軽減。ガソリン価格の補助も合わせて、標準世帯で約4万5000円の家計支援になる。来年(2023年)9月終了予定。
(2)円安を生かした「稼ぐ力」の強化(4.8兆円)。農林水産物や食品の輸出拡大。
(3)新しい資本主義の加速(6.7兆円)。働く人の賃上げ実現に向けてリスキリング(学び直し)支援拡大。妊娠・出産時支援として10万円相当支給。
(4)防災・減災など安心・安全の確保(10.6兆円)。園児の送迎用バスの安全装置改修支援。

――などの内容だ。

   中身は物価高対応だけではなく、公共事業も含めたあれもこれもの「バラマキ」が目立つ。与党・自民党の圧力で、財務省が維持しようとした財政規律が吹き飛んでしまった経緯を、いくつかの主要メディアが報じている。

   朝日新聞(10月28付)「4兆円一夜で丸のみ 政権窮地、自民強気の予算要求」という記事は、「自民党本部9階で26日午後、萩生田光一政調会長の怒号が響いた」という書き出しで始まる。

   同記事によると、矛先は自民党の意向だった「(補正予算案規模)約30兆円」を無視して、「約25兆円」を岸田文雄首相に示した財務省幹部に向けられたという。結局、増額を求める自民党の大合唱に、支持率低迷に悩む岸田首相も同調、要求をほぼ丸のみした格好になった。

   中身を取捨選択して対策を作るべきとの意見も首相周辺にはあったそうだが、「首相は『中身がまず大事。規模も大事。納得してもらえる規模を考えていく』と、自民党への配慮をにじませた」と朝日新聞は報じる。

   萩生田政調会長が、財務省幹部に「怒号」を発した3時間後、岸田首相は鈴木俊一財務大臣に見直しを指示、補正予算案規模は29.1兆円で決着した。朝日新聞は、自民党政調会幹部が「3時間で4兆円増えた。『時給1兆円』以上だな」と語ったエピソードを紹介している。

kaisha_20221031183628.jpg
為替介入を続ける財務省

   こうした経緯を日本経済新聞(10月28日付)は「社説:巨額の痛み止めを盛る経済対策の危うさ」でこう批判した。

「規模は与党内の圧力から土壇場で一気に膨れあがった。過去2年、政府はコロナ禍を受けた家計などへの支援で各70兆、30兆円台の歳出を追加した。日本経済は回復傾向にあり、世界はインフレ圧力にさらされる。状況は激変した」
「民間の経営革新や投資の後押しで経済の活力を高めるのが本来の政府の役割で、すべてを財政支出で埋める発想は間違っている。対策に賃上げやリスキリング(学び直し)を促す措置も盛り込まれたが、旧来の政策の焼き直しにとどまる」
「英国では財源の裏付けなく巨額の経済対策を示したトラス前首相が英国債の急落など市場の波乱を招き、辞任に追い込まれた。経常収支や国内勢の国債保有などの違いはあるものの、今回の対策は英国の失敗と、うり二つの構図だ」

始めたら止めにくい電気・ガス代補助は、ポピュリスト政策

   こうしてまとまった政府の総合経済対策をエコノミストはどうみているのか。

   日本経済新聞オンライン版(10月28日付)「政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模71.6兆円」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」で、政策研究大学院大学の竹中治堅教授(比較政治、国際政治経済)は、

「対策は首相が新しい資本主義で重視する科学技術開発、経済安保に真摯に取り組む覚悟があるのか疑問を感じさせる。最大の問題は開始後、撤回しにくい電気・ガス料金補助金である。ポピュリスト政策と言える」

との見方。そのうえで、その電気・ガス料金補助金について、

「1年間で3.9兆円必要になる。既に政権はガソリン補助金で3兆円以上費消している。(中略)首相は物価高騰が支持率や地方統一選挙に及ぼす影響が不安で仕方がないのだろう。だが、『広く薄く』で大きな効果は期待できない。財政赤字を増やすばかりである。巨額の財政資金を投じるなら科学技術開発や防衛体制拡充に充てる基金を設置したほうが遥かに我が国の将来に役立つはずだ」

と提案した。

kaisha_20221031183648.jpg
ガソリン価格の補助はいまだに続いている(写真はイメージ)

   日本経済新聞社上級論説委員・編集委員の菅野幹雄記者も、

「英国で財源なし、大盤振る舞いの巨額経済対策が市場に酷評され、首相の首が飛んだのをよそに繰り広げられた茶番劇です。弱者の立場にある人たちに手を差し伸べるのは、政治の責務です。しかし、景気も回復している中、富裕層にも電気代やガソリン代を補助する29兆円という額にどんな根拠があるのでしょうか」

と疑問を投げかけた。そして、

「英国同様の混乱が起きた時に、どんな責任を負うのでしょうか?」「いや、日本は違う? 確かに。でも、日銀が汗だくで国債を買ってしのいでいるだけですが。財政規律も大事という岸田首相が大盤振る舞いを黙認した罪は重い」

と厳しく糾弾した。

化石燃料費の補助は円安を加速...「逆効果」

   「電気代・ガス代の支援は、回り回って円安を加速させるため、結果的に物価上昇を招く」と懸念するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。

   熊野氏はリポート「総合経済対策:電気代・ガス代の問題点~価格補助がもたらす隠れた円安圧力~」(10月28日付)のなかで、まず来年(2023年)9月までの「時限措置」とされる電気代・ガス代の支援策を本当に終わらせることができるのか、と疑問を呈する。

「ガソリン・灯油などの価格補助も(今年)1月に始めて、延長に継ぐ延長でその予算は3兆円を超過している。何か出口なき緩和政策に似ている。こうした緊急避難的な対策は、始めるときにきちんと出口を考えていなくては、終わるに終われなくなる」

   そして、化石燃料を使いすぎると、経常収支の赤字が恒常化するリスクがあり、その赤字化が円安を促すため、物価対策として「自己矛盾」だと指摘する。

「実は、最近は経常収支が赤字化している(図表参照)。(中略)原因は、化石燃料の輸入量が多くて、円安になると貿易赤字が膨らむからだ。2011年の東日本大震災以降、原発稼働が停止していることが大きい」
kaisha_20221031183743.png
(図表)急速に進む経常収支の悪化(第一生命経済研究所の作成)
「岸田首相は、冬場を乗り切るために最大9基の原発稼働を再開するように指示を出した。しかし、それだけでは十分ではない。もしも今後、経常収支の赤字が拡大することになると、それ自体が円安圧力になる。円安によって輸入コストが上昇すると、それは物価対策に反する。物価上昇の痛みを、財政を使って緩和することを続けることになりかねない」

   すると、円安スパイラルの悪循環に陥ってしまう。熊野氏はこう結ぶ。

「日本が円安スパイラルに陥らないためにも、電気代・ガス代の支援は2023年9月で打ち切って、その後は過度な化石燃料の消費に依存しない体制を作る必要がある」

政府と日銀が足並みそろえない限り「お手上げ」

kaisha_20221031183840.jpg
日本とアメリカの金利差が開く限り円安は止まらない(日本と米国の国旗)

   熊野氏と同じく、岸田政権の大型経済政策が円安加速のリスクを高めてしまうと警告するには、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「円安加速のリスクを高める大型経済対策と金融緩和維持の日本型ポリシーミックス」(10月27日付)のなかで、まず、「日本経済は感染問題を乗り越えつつあり、その結果、現在の日本経済は他の主要国と比べても安定している。経済対策による景気支援は必要ではない」と言い切る。

   そして、こう指摘する。

「英国で大型減税策が金融市場の大きな混乱を招いたことから、各国では財政健全化の重要性が改めて認識されるようになった。そうした中、主要国で最も財政環境が悪い日本で、財政拡張策が強化されていることは奇異に映る。
また、それは金融市場に悪影響を与えるリスクを包含していよう。特に警戒されるのが、円安を加速させてしまうリスクである。今回の経済対策の柱は、電気・ガス値上げに対する支援策、いわゆる物価高対策であるが、経済対策が円安傾向を後押しし、物価高圧力を高めてしまえば、政府自らが政策効果を台無しにしてしまうことになる」
kaisha_20221031183901.jpg
異次元の金融緩和を続ける日本銀行

   もう1つ、政府と日本銀行の足並みの乱れという「自己矛盾」が加わる。

「政府は(中略)、物価高を助長する円安の流れを止めたいとの思いがあって為替介入を実施している。他方、日本銀行は円安進行を深刻な問題とは捉えておらず、為替の安定に配慮した金融政策の修正を強く拒んでいる」
「ここで、異例の金融緩和を維持する日本銀行の金融政策と、政府の財政拡張策がともに通貨の信認を低下させるポリシーミックス(政策の組み合わせ)が成立するのである。それは、悪い円安を加速させる可能性がある。またそれがさらなる物価上昇圧力となれば、経済への悪影響も強まっていくだろう」

   では、どうすればよいのか。

「(他国では)中央銀行が、金融引き締めで為替・物価の安定を狙う一方、政府は財政拡張を行って経済の安定を図る試みは、英国で失敗した。そこで、今後は、国内経済に配慮して利上げのペースを落とす傾向が見られ始めている。オーストラリアやカナダで予想外に小幅な利上げが実施されたのは、その例である」
「各国は日本に続いて単独の為替介入を実施し、小幅な利上げと為替介入という新たなポリシーミックスを模索し、引き続き為替と物価の安定を狙う可能性があるのではないか」

   ひるがえって日本ではどうか。

「日本では、経済・物価の安定のために最適なポリシーミックスは、財政規律の維持と、為替の安定に配慮した日本銀行の金融政策の修正・柔軟化である。しかし、実際には最適なポリシーミックスは採用される可能性は低く、共有された政策目標の達成のために政府と日本銀行が足並みを揃える最適なポリシーミックスの実現はまったく見えてこない」

   木内氏は「お手上げ」といった結論を導いている。

(福田和郎)

姉妹サイト