政府と日銀が足並みそろえない限り「お手上げ」
熊野氏と同じく、岸田政権の大型経済政策が円安加速のリスクを高めてしまうと警告するには、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「円安加速のリスクを高める大型経済対策と金融緩和維持の日本型ポリシーミックス」(10月27日付)のなかで、まず、「日本経済は感染問題を乗り越えつつあり、その結果、現在の日本経済は他の主要国と比べても安定している。経済対策による景気支援は必要ではない」と言い切る。
そして、こう指摘する。
「英国で大型減税策が金融市場の大きな混乱を招いたことから、各国では財政健全化の重要性が改めて認識されるようになった。そうした中、主要国で最も財政環境が悪い日本で、財政拡張策が強化されていることは奇異に映る。
また、それは金融市場に悪影響を与えるリスクを包含していよう。特に警戒されるのが、円安を加速させてしまうリスクである。今回の経済対策の柱は、電気・ガス値上げに対する支援策、いわゆる物価高対策であるが、経済対策が円安傾向を後押しし、物価高圧力を高めてしまえば、政府自らが政策効果を台無しにしてしまうことになる」
もう1つ、政府と日本銀行の足並みの乱れという「自己矛盾」が加わる。
「政府は(中略)、物価高を助長する円安の流れを止めたいとの思いがあって為替介入を実施している。他方、日本銀行は円安進行を深刻な問題とは捉えておらず、為替の安定に配慮した金融政策の修正を強く拒んでいる」
「ここで、異例の金融緩和を維持する日本銀行の金融政策と、政府の財政拡張策がともに通貨の信認を低下させるポリシーミックス(政策の組み合わせ)が成立するのである。それは、悪い円安を加速させる可能性がある。またそれがさらなる物価上昇圧力となれば、経済への悪影響も強まっていくだろう」
では、どうすればよいのか。
「(他国では)中央銀行が、金融引き締めで為替・物価の安定を狙う一方、政府は財政拡張を行って経済の安定を図る試みは、英国で失敗した。そこで、今後は、国内経済に配慮して利上げのペースを落とす傾向が見られ始めている。オーストラリアやカナダで予想外に小幅な利上げが実施されたのは、その例である」
「各国は日本に続いて単独の為替介入を実施し、小幅な利上げと為替介入という新たなポリシーミックスを模索し、引き続き為替と物価の安定を狙う可能性があるのではないか」
ひるがえって日本ではどうか。
「日本では、経済・物価の安定のために最適なポリシーミックスは、財政規律の維持と、為替の安定に配慮した日本銀行の金融政策の修正・柔軟化である。しかし、実際には最適なポリシーミックスは採用される可能性は低く、共有された政策目標の達成のために政府と日本銀行が足並みを揃える最適なポリシーミックスの実現はまったく見えてこない」
木内氏は「お手上げ」といった結論を導いている。
(福田和郎)