「越境学習者は二度死ぬ」
越境前、越境中、越境後の調査を通じて、わかったことがある。それは、「越境学習者は二度死ぬ」。こういう言葉で表現しているが、意味するのは「越境学習者は二度の葛藤を通して学ぶ」ということだ。
アウェイでの越境中に大きな衝撃と葛藤があることは想定していたが、実はホームに戻った越境後の葛藤と衝撃のほうが大きいことが新たな発見だという。こうまとめている。
【越境中】
・自社の常識が越境先に通じない衝撃
・多様な人々と対等にコミュニケーションする力
・異質な環境でまずは自分が動くための情報を速習する力
・経営の全体像を把握する力
【越境後】
・所属組織への逆カルチャーショック
・自分の情熱と周囲の情熱との落差への衝撃
・逆境でも自己や周囲を信頼できる力
二度の葛藤で、もがくことにより、俯瞰する視点(メタ認知力)が得られることで、人の協力、知識や情報が得やすくなり、会社を変えていく力になる、と総括している。
本書には実際に越境学習した4人のケーススタディが写真付きで詳しく報告されている。
たとえば、ハウス食品グループ本社からインドネシアの社会的企業へ4カ月「留職」した男性は、日本の職場と現地の温度差が埋められず、もがいた。
インドネシアではミッションを全てクリアすることはできなかったが、現地に提供できる成果もあったそうだ。帰国後は、逆に、元の職場のいつもの風景に戸惑ったという。だが、自分の態度を押しつけるのではなく、思いを繰り返し伝えることで、食品メーカーとして社会課題に貢献することを仲間と探っている。
このほか、パナソニックからITベンチャーに1年間「レンタル移籍」した女性は、経営者目線を獲得し、会社全体の成果を考えるようになった、と報告。西日本電信電話株式会社から「人工流れ星」を売る宇宙ビジネスを経験した男性は、越境により、「リスクマネジメント志向」から「リスクテイキング志向」に変わったという。
企業の人材育成に越境学習を位置づけるには、会社として異なる価値観を受け入れ、冒険をする人を奨励し、新しいことを積極的に受け入れる組織にするというコンセンサスが必要だという。
とくに、越境者への「迫害」は禁物で、「関心は寄せつつ、関与は慎重にする」という態度が求められるという。
企業から派遣されるのが越境学習のすべてではなく、仕事を続けながらボランティアや副業、異業種の勉強会に参加することもまた越境学習だと書いている。ならば、誰もが越境学習をするチャンスはある。
ようは、会社以外の「場」をつくるということだ。著者は「人は誰もが越境学習者」だと励ましている。冒険のヒントはいろいろなところにあるということだろう。
(渡辺淳悦)
「越境学習入門」
石山恒貴・伊達洋駆著
日本能率協会マネジメントセンター
1980円(税込)