22世紀、選挙はアルゴリズムに?...民主主義「再発明」する革命的な提案、話題の一冊

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   経済学者・データ科学者の成田悠輔さんの著書「22世紀の民主主義」(SB新書)が、20万部を突破するベストセラーになっている。副題が「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」。一見すると突拍子もない主張だが、選挙や政治、民主主義というゲームのルール自体を作り変えようという提案だ。

「22世紀の民主主義」(成田悠輔著)SB新書

   成田さんは、イェール大学助教授のかたわら、半熟仮想株式代表を務める。専門はデータ・アルゴリズムを使ったビジネスと公共政策。テレビのバラエティー番組にも出演するなど幅広い活動をしている。

民主主義的な国ほど、コロナ禍で命も金も失った

   政治については素人の成田さんが、なぜ政治や民主主義について考えるようになったのか。それは、「暴れ馬・資本主義をなだめる民主主義という手綱」という模式図が崩れようとしているからだという。

   今世紀に入ってから、非民主化・専制化する方向に政治制度を変える国が増える傾向がある、と指摘する。民主主義の旗色が悪い。

   本書に収められた、いくつかのグラフが民主主義の「劣化」を示している。

   たとえば、民主主義指数(横軸)と2001~2019年の平均的GDP(縦軸)のグラフを見ると、アメリカや日本、フランスなど民主国家ほど経済成長が低迷していることが分かる。この負の相関には因果関係もあるという。

   また、民主主義指数(横軸)と100万人当たりのコロナ死者数(縦軸)のグラフを示し、アメリカ、フランスなど民主主義の代表格といえる国々は右上に位置し、左下にある中国は初期にコロナ封じ込めに成功した。さらに、縦軸に2019~2020年のGDP成長率をとったグラフでは、民主主義と経済成長の間に、はっきりした負の相関関係があるという。そして、こう断言する。

「民主主義的な国ほど命も金も失った。そして、コロナ禍初期における民主国家の失敗もまた、民主主義が原因で引き起こされたものだと示すことができる。このことはコロナ禍初期によく議論された『人命か経済か』という二者択一(トレードオフ)の議論がおそらく的外れなことも意味する。現実には人命も経済も救えた国と、人命も経済も殺してしまった国があるだけだったのだ」

   21世紀に入り、平時も有事も民主国家が失速したのは、「インターネットやSNSの浸透にともなって民主主義の『劣化』が起きた」からだと説明している。それは、政治だけでなく経済にも影響が出ている、と指摘する。

   2000年代に入ってから、アメリカのトランプ元大統領が主張した保護主義的な貿易政策がとられ、民主世界全般に輸出も輸入も成長が滞った。また、将来の税制や貿易政策がどう変わるかわからず、資本や設備への投資が伸び悩んでいる。

民主主義が生き延びるためには?

   では、「重症」の民主主義が今世紀を生き延びるために、何が必要だろうか?――こう問題提起する。それは、ロシアの自爆的侵略や中国の共産党支配を見ても明らかだが、独裁・専制への回帰ではない。

   民主vs.専制の二項対立を超えた民主主義の次の姿への脱皮だとして、民主主義との闘争、民主主義からの逃走、そして、新しい民主主義の構想という流れで論を進める。

   まず、「闘争」だ。これは、民主主義と愚直に向き合い、改良しようという試みだ。オンライン投票など選挙制度の改革も考えられるが、実現可能性は低いと見ている。

   次が「逃走」だ。どの国も支配していない地球最後のフロンティア・公海の特性を逆手にとって、公海を漂う新国家郡を作ろうという企ては実際にあるという。

「21世紀後半、資産家たちは海上・海底・上空・宇宙・メタバースなどに消え、民主主義という失敗装置から解き放たれた『成功者の成功者による成功者のための国家』を作り上げてしまうかもしれない」

「無意識データ民主主義」の提案

   だが、逃走はどこまで行っても逃走でしかない、として、今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明を提案している。それは、「無意識データ民主主義」である。こう説明する。

「インターネットや監視カメラが捉える会議や街中・家の中での言葉、表情やリアクション、心拍数や安眠度合い......選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意が染み出している『あの政策はいい』『うわぁ嫌いだ』といった声や表情からなる民意データだ。個々の民意データ源は歪みを孕んでハックにさらされているが、無数の民意データ源を足し合わせることで歪みを打ち消しあえる。民意が立体的に見えてくる」

   そこから意思決定を行うのは、アルゴリズムだ。人々の民意データに加え、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標データを組み合わせた目的関数を最適化するように作られる。

   エビデンスに基づき、目的を発見し、エビデンスに基づいて政策が立案される。「民主主義とはつまるところ、みんなの民意を表す何らかのデータを入力し、何らかの社会的意思決定を出力する何らかのルール・装置である」と説明する。

   選挙は「雑なデータ処理装置」で欠陥だらけだが、数百年前の段階でギリギリ全国を対象に設計・実行できたデータ処理装置が選挙だから、今も続いているという。

   「無意識データ民主主義」の萌芽は、アメリカの金融政策にすでにあり、公的歩合をどの水準に設定するかを助けるためのマクロ経済予測アルゴリズムが存在するそうだ。

   無意識民主主義が実現すると、生身の政治家は不要になる。ネコのような存在になるとも。「ネコやアルゴリズムに責任が取れるのか」という疑問に対し、「そもそも人間の政治家は責任を取れているのだろうか」と反論している。

   壮大な「思考実験」のようにも思えるが、成田さんはSFでも構想でもなく、「予測」だと自信を持っている。無意識データ民主主義を実現するデバイスはできつつある。

(渡辺淳悦)

「22世紀の民主主義」
成田悠輔著
SB新書
990円(税込)

姉妹サイト