「YES・NO」で答えられる質問をしない
「なるほど」と思ったのは、会話の始動で「YES・NO」で答えられる「クローズド・クエスチョン」をしてはいけないということだ。たとえば、「家賃は高いのですか?」ではなく、「家賃はいくらくらいですか?」と尋ねる。
始動でクローズド・クエスチョンを投げてしまうと、相手に高圧的な印象を与えてしまったり、聞き手に対して疑問符が浮かんでモチベーションが下がったりするという。
このほかにも、「必ず対角線に座る」「質問→返答→質問→返答によって膨らませていく」「雑談はせず、すぐに本題に入る」「相手が主人公の物語をイメージし、起点をつくる」などのポイント、テクニックが重要だと思った。取材経験が長い評者でも、いろいろなミスをしてきたな、と反省を迫られた。
また、「欲望の断捨離」という言葉も心に響いた。それは、聞き手の心のなかにある「相手に信頼されたい」「相手から気に入られたい」「あわよくば、友達になりたい」みたいな欲望が大きな障壁になっているという指摘だ。
たくさんの欲望があるなかで、どの欲望に絞るべきか。商談の成功、部下の幸せのため、モテたい――なんでもいいから、欲望を一つだけに絞り、その欲望を達成させるためだけに相手に向き合うことだと。
ここには単なるテクニックを超えた、深いものがあると思った。
(渡辺淳悦)
「悪魔の傾聴」
中村淳彦著
飛鳥新社
1540円(税込)