「濃い」をうたった飲料が広がっている。スーパーやコンビニエンスストアの売り場には定番のお茶に加え、アルコール類も多数並び、新商品も次々と発売されている。
濃い飲料が増えている背景には、新型コロナウイルス禍によって高まった健康志向や「プチぜいたく」を求める消費者の意識があるようだ。
「濃い飲料」のはしりは伊藤園「お~いお茶 濃い茶」
「コク深く香り高いおいしさが楽しめる」とアサヒ飲料がPRするのは2022年9月にリニューアル発売した「アサヒぎゅっと濃い十六茶」。通常の「十六茶」に比べ、素材を1.5倍多く使用したという。同社は「中身の濃さを訴求する商品は緑茶系が多いが、『濃いブレンド茶』という新しい提案をしたい」と強調する。
サントリー食品インターナショナルも9月、緑茶ブランドの「伊右衛門」から、「伊右衛門恋甘(こいあま)」など2商品を発売した。「伊右衛門史上、最高レベルに甘くて濃いホットの有糖飲料」とし、スイーツのようなぜいたくな味わいを楽しめるよう開発したという。「恋甘」は同社の類似品の約4倍に上る抹茶・緑茶パウダーを使ったそうだ。
そんな話題の濃い飲料のはしりは、伊藤園が「お~いお茶」ブランドから2004年に発売した「濃い茶」だとされている。
カテキンの含有量が多く、体脂肪を減らす効果があるとPRしたことなどから、「濃い茶」は中年男性らを中心に人気が集まり、ヒット商品になった。この動きに押されるように、メーカー各社が濃い飲料を売り出し、アルコールも含めてさまざまな商品が生まれた。
ここ数年、濃い飲料の人気はさらに高まっており、伊藤園の「濃い茶」をはじめ、売り上げを伸ばしている商品が多い。
在宅勤務で運動不足に...「せめて飲み物だけでも体によいものを」
なぜなのか。「コロナ禍の影響が大きい」と飲料メーカー関係者はいう。感染予防からテレワークなど在宅で過ごすことが増えたのに伴い、運動不足などで体調不良を訴える人も増加した。「せめて飲み物だけでも体によいものにしたいと考える人が、今まで以上に濃い飲料に注目したようだ」というわけだ。
ほかにも理由はある。サントリーは「伊右衛門恋甘」の発売について、「身近な飲料や食品でちょっとしたぜいたくをして楽しみたいというニーズが高まっている」と指摘する。「プチぜいたく」を求める人も増えているというのだ。
ウイルスの感染拡大期は外食する機会が激減したが、現在のように感染が少し落ち着いた時期でも、以前のような外食は控える傾向は大きく変わらないといわれている。
「日ごろは健康に気をつけていても、たまには息抜きもしたい。そんな時に楽しめるプチぜいたくな飲料も広く受け入れられている」と見る流通関係者もいる。
濃い飲料は消費者のさまざまなニーズに応じ、今後もいっそう多様化していく可能性が高い。(ジャーナリスト 済田経夫)