今冬から来年いっぱい続く物価高の対応が「正念場」
一方、第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏は、リポート「英国の命運はスナク氏に託された~まさかのジョンソン再登板は回避~」(10月25日付)の中で、「堅実な政策手腕に定評がある」スナク氏に期待を込める。
「若い頃から英国の欧州連合(EU)からの離脱を支持し、2016年の国民投票でも離脱に投票した。だが、政界入り後は強硬離脱派と距離を保ち、離脱のメリットを声高に主張することもなかった。
雑貨屋の娘だったサッチャー元首相と、薬屋の息子だった自身の出自を重ね合わせ、自らを保守党的価値観と自由主義の信奉者と呼ぶが、コロナ禍の財務相として史上最大規模の政策介入を行った。
財政規律を重視し、トラス氏と争った前回の党首選では、インフレが沈静化した後の減税を主張し、財政規律を度外視したトラス氏の大型減税の危うさを指摘した」
そして、今後の課題をこう指摘した。
「トラス政権の政策迷走と金融市場の混乱を受け、スナク新首相には堅実な政策運営の手腕発揮と党内融和が求められる。(中略)トラス減税の全面撤回に舵を切ったハント財務相が留任する可能性が高い。エネルギー料金凍結の期間短縮と減税撤回後も300~400億ポンド程度の財政の穴があるとされ、ハント財務相は10月31日に予定される中期財政計画の発表と合わせて、追加の増税や歳出削減策を公表する公算が大きい」
「スナク氏の首相就任により、金融市場の不安心理は後退するとみられる。ただ、大型減税の全面撤回により、目先の景気には下押し圧力が強まることが予想される。また、当初2年間を予定していた家庭向けのエネルギー料金の凍結が来年3月末までに短縮され、4月以降はエネルギー料金が再高騰する可能性が高い。物価高騰の長期化でBOE(英イングランド銀行)の利上げ局面が想定以上に長期化する恐れがある」
今冬から来年いっぱいにかけての物価の高止まりをどうするか、英国民の怒りをどう和らげるか、正念場を迎える。
(福田和郎)