「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
分断進み、「内戦前夜」の米国
2022年10月24日発売の「週刊東洋経済」(2022年10月29日号)の特集は、「米中大動乱」。制御困難な米国のインフレと、急失速する中国経済。21世紀の経済成長を牽引した両大国が混乱に陥っている。米中発のリスクが暴発寸前だと警鐘を鳴らしている。
保守とリベラルの分断が広がる米国現地ルポのタイトルに驚いた。「内戦前夜」と表現しているからだ。
共和党、民主党双方の支持者の声を聞き、資本主義的な競争原理と社会弱者への配慮のどちらを重視するかが、米国政治の大きな対立軸になっている、と同誌は指摘する。
2021年1月には、不正選挙を訴えるトランプ前大統領の支持者たちが議会議事堂を襲撃する事件が発生した。対話ではなく、暴力に訴えるしかなくなっている状況を、1860年代に起こった南北戦争以来の「内戦前夜」と位置づける見方があるという。
分断をあおる動きは、共和党側に目立つ。フロリダ州では今年3月、「ストップ・ウォーク・アクト(子どもと従業員への不正を阻止する法律)」が成立した。これは、人種差別や性差別、環境などの社会問題について、「意識を高める(WOKE)」ことを禁じる法律だ。
企業研修や学校教育で有色人種の権利やセクシャルマイノリティーの意識を高めるような指導をすれば、民事訴訟を起こされる可能性が生じたという。8月に連邦裁判所は法律の執行を一時的に差し止めているが、白人男性の社会的地位の維持につながりそうな、世界の流れに逆行する法律だ。
6割超の米国人が今後数年間で「分断が拡大する」と予想し、4割超が今後10年以内に「内戦が起こる可能性がある」と回答した調査を紹介している。
国内に不安定要素を抱える米国だが、中国への対抗の必要性とその中核に半導体が位置づけられている点では、民主党と共和党は一致している。
8月には、米国の半導体産業に巨額の補助金をつぎ込む「CHIPS・科学法」が連邦議会で成立した。この法律には、財政支援を受けた企業に対して、中国での新規投資を一定期間禁止するガードレール条項が含まれている。
中国も半導体の自給率を上げようとしているが、先端半導体を生産するのに必要な製造装置の導入が進まず、技術覇権の勝敗が見え始めたと指摘している。
◆中国の「不動産バブル」が最終局面
中国関連では、中国の「不動産バブル」がついに最終局面を迎えたというレポートに注目した。2020年半ばに中国版「総量規制」が始まり、政府主導で「バブル潰し」を行った。
21年7月以降、中国恒大集団など過剰債務を抱えたディベロッパーの流動性危機が表面化し始め、上場しているディベロッパー55社のうち21社がデフォルトに追い込まれた。
デフォルトを避けようと、建設中止になったマンションが続出、住宅ローンの返済を拒否する動きも広まっているという。「不動産の不振が加速し、金融リスクの火種になる」と見ている。
3期目が決まった習近平国家主席について、福本智之・大阪経済大学教授ら4氏が、経済、外国、政治改革、内政の4分野を5段階で評価し、「通信簿」を付けている。
福本さんは20点満点の10点。他の3氏も「統制やゼロコロナで経済が減速」「尊敬される超大国のチャンスを逃がす」などの理由で9点、10点と辛い評価だ。
米中のはざまで生きていかなくてはならない日本。双方のリスクをしっかり見極めていくことが求められている。
「介護難民」にならないために
「週刊ダイヤモンド」(2022年10月29日号)は、「親のため自分のために選ぶ介護」と題し、施設と住まいの最新情報と選び方をまとめている。また、有料老人ホーム・ランキングベスト1000を発表、役に立つガイドになっている。
最初に、「介護難民」にならないための準備を説いている。「要介護になっても最期まで住み慣れたわが家で」と願う人は多い。だが、その願いをかなえるのは、家族とお金だという。
「在宅介護の限界は排せつ」という指摘が生々しい。
高齢者の下の世話は家族もやりたがらないし、される方も嫌がる。ホームヘルパーを長時間入れると、自己負担が増えてあっという間に20万円を超えてしまう。そこで、20万円以下の費用で済む施設に移るケースが多いそうだ。
団塊世代が75歳以上になる2025年には、要介護者は600万人を超え、介護人材が約32万人不足する、と厚生労働省は予測している。
また、同誌は、代表的な高齢者向けの施設・住宅をタイプ別に紹介している。公共型には特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)などがあり、民間型には介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などがある。
特養にはなかなか入れないと言われたが、2015年に入居条件が要介護1以上から3以上に引き上げられたこともあり、実際の待機者は意外と少ないという。資金的な余裕がない場合は真っ先に検討したい施設だ。
老健は病院と家の中間的な位置付けで原則3~6カ月程度しかいられない。別の施設に住み替えたり一時的に入院したりするなどして、老健に長期間入っている人もいる。
◆特養選びのチェックポイントとは
特養を選ぶ際のチェックポイントを見て、厳しい実態を感じた。
看取りへの支援体制や医療体制は当然だが、職員の教育体制や退職者数、事故・虐待の発生状況や発生時の対応策などもチェックの対象になっている。特養だけでなく、サ高住などに入る際にも応用が利く。
有料老人ホームのランキングベスト1000には、エリア別、金額別、タイプ別に掲載。5年間でどれくらい費用がかかるか、それを見るだけでも役に立つかもしれない。
ブランドごとの価格帯と介護サービスの充実度を見ると、質の高いサービスは費用も高いことがわかる。5年間で5000万円近い施設もある。最終的には、懐具合との相談になるようだ。
賃上げできる企業が「有望株」の目安に
「週刊エコノミスト」(2022年11月1日号)の特集は、「市場の選別眼 円安物価高に強い200社」。急激な円安と物価高でも、業績アップが期待できる企業を紹介している。
賃上げに対応できるかどうかが1つの目安だという。
たとえば、アイリスオーヤマは、21年度の売上高が過去最高の2494億円で、増収増益。今春に正社員3538人を対象に3.6%のベースアップと新卒初任給の引き上げを決めた。
国内出荷を強化するため、中国にある4つの工場から、主力商品であるプラスチックの収納用品約50種類の金型を日本の3拠点に移管する。円安の影響などで、中国で生産するよりも2割ほどコストダウンする商品もあるそうだ。
来年の春闘では、賃上げできる企業とそうでない企業に分かれ、賃上げできる企業であれば、業績や採用などでも期待できるとして、有望株を見極める指標にもなる。
円安で増益が期待される企業のリストも載っている。
企業のドル・円の前提などが要素だ。トップになったのは日本電産。1ドル=110円を想定しており、ドル・円ギャップが25.9%と大きく、足元の145円前後で推移すれば、業績の上振れが期待される。
2位のレオン自動機はドル・円ギャップは15.4%ながらも、ドル・円売上高比率が40.9%と高く、円安のメリットが大きそうだ。このほか、ミネベアミツミ、浜松ホトニクスなどが上位に入っている。
◆インバウンドの恩恵を受けると予想される企業
水際対策が緩和され、外国人観光客の姿が10月以降、目に見えて増えてきた。そこで、インバウンドの恩恵を受けると予想される7社を挙げている。
具体的には、過去にも、訪日外国人が業績に寄与してきた「コメ兵ホールディングス」。円安は海外からの輸入ブランド品が割高になる半面、中古品の買い取りが上昇することで、商品を売った人が別の商品を買って帰る好循環につながると見ている。
ネットの格安航空券予約サイトの「アドベンチャー」は、東南アジアには市場を寡占している同業他社は存在せず、事業成長ポテンシャルが高いという。愛知県を中心にホテル事業を展開する「ABホテル」は、今期は第1四半期に過去最高益を更新している。
このほかに、老舗百貨店の「松屋」、外食産業の「ロイヤルホールディングス」、ワシントンホテルなどを運営する「藤田観光」、航空券のオンライン専業旅行社の「エアトリ」も期待できるという。
円安だからと悲観的にならず、その中でも業績アップする企業を見極めることが肝要だ。
(渡辺淳悦)