急激な物価上昇によって財布の中身が寂しくなる一方だが、来年(2023年)の賃上げこそ「明るい春」を期待したいもの......。
東京商工リサーチが2022年10月21日に発表した「2023年度『賃上げに関するアンケート』調査」によると、賃上げ実施を予定している企業は81.6%に達していることがわかった。
一方、労働組合の中央組織である連合(日本労働組合総連合会)は物価高に対応するには「5%程度」の賃上げが必要だとする春闘の目標を掲げたばかり。調査では「5%以上」の引き上げは4.2%にとどまり、「明るい春」は厳しそうだ。
引き上げ幅は「2%以上~5%未満」が最多
総務省が10月21日に発表した9月の消費者物価指数は、値動きが激しい生鮮食品をのぞく、総合指数が前年同月より3.0%上がった。消費増税が影響した期間を除くと、1991年8月以来の、実に31年1か月ぶりの高い水準だ。
こうした物価高の影響で実質賃金の減少が続いているため、連合は10月20日、来年(2023年)の春闘での賃上げ目標を「5%程度」に引き上げると発表した。
物価高騰が社会問題になり、「5~6%程度の賃上げ」を掲げた1995年以来の高い目標となる。過去7年連続で「4%程度」だったが、急激な物価上昇を踏まえ、さらなる引き上げを求めていくことにした。ただ、実際の賃上げ率は近年2%前後で低迷しており、目標の水準にどこまで近づけられるかが焦点だ。
東京商工リサーチの調査によると、来年度(2023年度)に賃上げ実施を予定すると答えた企業は81.6%だった。今年度(2022年度)実施した企業は82.5%だったから0.9ポイント下回ったが、2年連続の8割台で、コロナ前と同水準(80%台前半)を維持している=図表1参照。
内訳は、最多が「引き上げ幅2%以上~5%未満」(41.5%)で、次いで「同2%未満」(35.8%)。連合が目指す「同5%以上」と答えた企業は4.2%にとどまった=再び図表1参照。
業績改善を伴わない賃上げを迫られている中小企業
また、規模別では、「実施する」は大企業の85.1%に対し、中小企業は81.2%で、中小企業が3.9ポイント下回った=再び図表1参照。
産業別では、コロナ禍の回復が比較的早かった製造業(88.1%)に加え、建設業と卸売業も「実施率」が8割を超えた。一方、「サービス業他」「小売業」「不動産業」の3産業では、中小企業の実施率がむしろ大企業を上回った。
なぜか。モノやサービスを直接個人に提供するこれらの「BtoC産業」では、人出不足が特に深刻だ。アフターコロナに向けた経済活動の再開で、人材確保のためにも、中小企業が業績改善を伴わない賃上げを迫られている状況が浮き彫りになったかっこうだ。
なお、賃上げを「実施する」と答えた企業にその内容を聞くと(複数回答)、最多は「定期昇給」(79.8%)だった。以下、「ベースアップ」(39.0%)、「賞与(一時金)の増額」(36.9%)と続く=図表2参照。
東京商工リサーチでは、こうコメントしている。
「東京商工リサーチが10月に実施した『業績見通しアンケート』調査では、(中略)6割以上の企業が今年度の業績が悪化、もしくは現状維持を見込んでおり、『賃上げは実施するが、賃上げ率は伸び悩む』可能性も出てきた」
「物価高に対応するため、従業員への賃上げが切実に求められる一方、賃上げ原資が不足する可能性もある中小企業は、背伸びした無理な賃上げが経営悪化に直結しかねない。人材確保と業績改善の狭間で『賃上げ』に悩む中小企業は多い」
特に中小企業が難しい判断に迫られている、と懸念を示している。
調査は2022年10月3日~12日にインターネットによるアンケートで行われ、4433社から有効回答を得た。うち資本金1億円以上の大企業(471社)は10.6%、1億円未満の中小企業(個人企業を含む、3962社)は89.4%。賃上げの定義を「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」とした。
(福田和郎)