業績改善を伴わない賃上げを迫られている中小企業
また、規模別では、「実施する」は大企業の85.1%に対し、中小企業は81.2%で、中小企業が3.9ポイント下回った=再び図表1参照。
産業別では、コロナ禍の回復が比較的早かった製造業(88.1%)に加え、建設業と卸売業も「実施率」が8割を超えた。一方、「サービス業他」「小売業」「不動産業」の3産業では、中小企業の実施率がむしろ大企業を上回った。
なぜか。モノやサービスを直接個人に提供するこれらの「BtoC産業」では、人出不足が特に深刻だ。アフターコロナに向けた経済活動の再開で、人材確保のためにも、中小企業が業績改善を伴わない賃上げを迫られている状況が浮き彫りになったかっこうだ。
なお、賃上げを「実施する」と答えた企業にその内容を聞くと(複数回答)、最多は「定期昇給」(79.8%)だった。以下、「ベースアップ」(39.0%)、「賞与(一時金)の増額」(36.9%)と続く=図表2参照。
東京商工リサーチでは、こうコメントしている。
「東京商工リサーチが10月に実施した『業績見通しアンケート』調査では、(中略)6割以上の企業が今年度の業績が悪化、もしくは現状維持を見込んでおり、『賃上げは実施するが、賃上げ率は伸び悩む』可能性も出てきた」
「物価高に対応するため、従業員への賃上げが切実に求められる一方、賃上げ原資が不足する可能性もある中小企業は、背伸びした無理な賃上げが経営悪化に直結しかねない。人材確保と業績改善の狭間で『賃上げ』に悩む中小企業は多い」
特に中小企業が難しい判断に迫られている、と懸念を示している。
調査は2022年10月3日~12日にインターネットによるアンケートで行われ、4433社から有効回答を得た。うち資本金1億円以上の大企業(471社)は10.6%、1億円未満の中小企業(個人企業を含む、3962社)は89.4%。賃上げの定義を「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」とした。
(福田和郎)