注意すると、すぐに「パワハラ」と言い立てる部下...どう対応する?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE 14(前編)】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

   今回の「CASE 14」では、注意すると、すぐに「パワハラ」と言い立てる部下のケースを取り上げます。

  • 部下を「叱る」ということについて(写真はイメージ)
    部下を「叱る」ということについて(写真はイメージ)
  • 部下を「叱る」ということについて(写真はイメージ)

「課長、それってパワハラですよ!」

【上司(課長)】Aさん。君は来期から新人の教育担当だから、今度の「OJTリーダー研修」受講してほしいんだが...。
【部下(Aさん)】私、以前だいぶ勉強しましたから受けなくて大丈夫です。ちょうどこれからが繁忙期ですし。
【上司】しかしね、部署として受講歴も必要なんだ。何とか都合つけてくれないか...。
【部下】そんな形式にこだわるの無駄ですよ。でしたら課長が受講して、ミーティングで共有してくださいよ。
【上司】なにっ、オレに行けというのか! 怪しからんことを言うな!
【部下】ほら。そうやってすぐに怒るじゃないですか。課長こそ、人の育て方を学んできてくださいよ。
【上司】何だと! いったい上司を何だと思ってるんだ!
【部下】課長、そんな怒鳴り方はパワハラですよ!会社の防止規程に引っ掛かります。
【上司】えっ、まさか...。ハハハ...冗談はやめにしよう。まあ忙しいなら仕方ないな...。

パワハラと部下指導の境界線

   組織を運営していくうえでは、上司として部下を注意したり、叱ることもあるでしょう。一方、然るべきときに部下を褒めることも大切です。

   しかし「叱る」「褒める」というのはなかなか難易度が高く、その仕方に上司力が現れるともいえます。

   パワハラ防止法が施行されたこともあり、近年はアンガーマネジメントが多くの企業で採用され、流行になっています。その理由は、法令順守の観点のみではなく、企業が置かれた状況の大きな変化によると考えられます。

   かつては上司からパワハラまがいの言葉を受けても、部下は我慢しがちでした。そもそも、パワハラという概念もありませんでした。終身雇用と年功序列の中でいずれ出世し、給料が上がり、退職金も入るから...という考えも背景にはあったでしょう。

   しかし、現在その理屈は通用しなくなっています。若年層を中心に「我慢はしたくない、頑張った分はすぐリターンが欲しい」という欲求が高まっています。

   一方で、「ハラスメントになるような言動はご法度」ということが社会的に認知されてきました。これにより、ハラスメントの受け手となりやすい部下の側は、自分が違和感を覚えたり傷ついたりしたとき、すぐに「それはハラスメントではないですか?」と口にしやすくなったといえます。

   そうした環境の中、企業や企業のマネジメント層は、部下に感情を向けることに非常に過敏になり、怒りを抑えるアンガーマネジメントが求められてきたと思われます。

上司は感情を抑えるべき?

   アンガーマネジメントは、「怒りを感じたら6秒待つ」などを学び実践していくものです。技術的にはさほど難しくなく、身に付ける意義はあるでしょう。しかしその一方で懸念されるのは、上司の皆さんが「上司たるもの、感情を抑えるべきだ」と思い込むことです。

   感情を無理に抑え込むことは、人間として自然な姿ではありません。「上司が部下の心を動かす」との観点からは、ときには感情を表現することも必要だと私は考えています。上司の皆さんには、「感情を見せた叱り方など、一切まかりならん」とは考えないでいただきたいのです。

   では、部下を叱る際には、どのような心構えと方法を取ればよいのか――。<注意すると、すぐに「パワハラ」と言い立てる部下...どう対応する?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE14(後編)】(前川孝雄)>で解説していきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。

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