円安ついに1ドル=150円突破! 年末に160円?なぜ為替介入しない? エコノミストが読む...財務省の狙いは「時間稼ぎ」、米国の制約あった?

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   2022年10月20日、米ニューヨーク外国為替市場でドル円レートがついに1ドル150円を突破した。翌21日の東京外国為替市場では150円台半ばにつけ、ジリジリと円安が進んだ。

   しかし、日本政府・日本銀行は2度目の為替介入を行なった形跡がない。金融市場では、いつ為替介入があるか、にらみ合いを続けながら、試すように円売りドル買いを続けている。

   鈴木俊一財務大臣の「過度な変動には断固たる措置を取る」という発言はいつ実行されるのか。政府・日銀が再度の介入に踏み切れない理由をエコノミストが読み解く――。

  • 財務省はいつ為替介入に踏み切るのか?(霞が関の財務省庁舎)
    財務省はいつ為替介入に踏み切るのか?(霞が関の財務省庁舎)
  • 財務省はいつ為替介入に踏み切るのか?(霞が関の財務省庁舎)

ウォール街「介入しても市場のターゲットになるだけ」の声

ハイペースで利上げを続けるパウエルFRB議長(FRB公式サイトより)
ハイペースで利上げを続けるパウエルFRB議長(FRB公式サイトより)

   ドル円レートが1ドル=150円の水準を超えた10月21日、米ウォール街の住人たちは、日本政府と日本銀行がいつ再び為替介入に踏み切るか、固唾を飲んで見守った。海外経済メディアが伝える。

   《サンタンデール銀行のG10通貨戦略責任者、スチュアート・ベネット氏は、日本の「政策立案者は自らを窮地に追い込んだ。為替介入は皆が考えたほど永続的な効果を持たなかった」と指摘。「(中略)再び介入が実施される可能性は非常に高い。だがそれがうまくいくとは考えにくく、どの水準で行われても市場のターゲットになるだけだろう」と述べた。》(ブルームバーグ)

   《MUFGの欧州グローバル市場調査責任者、デレク・ハルペニー氏は「財務省は無秩序な値動きがあれば介入する用意があると明言しているため、ある時点で介入があるとの見方が織り込まれている」と指摘。「ドルが150円を明確に上回り、無秩序な値動きが見られれば、何らかのアクションが起こされるきっかけになる可能性がある」と述べた。ただ、ドル/円相場が急激に動かない限り介入はないとの見方を示した。》(ロイター通信)

「強すぎるドル」に各国から不満の声が相次ぐ(写真はイメージ)
「強すぎるドル」に各国から不満の声が相次ぐ(写真はイメージ)

   国内メディアの報道によれば、10月20日夕、円相場が一時、1ドル=150円台まで下落したことをうけ、為替介入を指揮する財務省の神田真人財務官が取材に応じた。記者たちが「1ドル=150円をつけました!」と問いかけると、神田財務官は、

「今まで以上に過度な変動が許される状況ではなくなっている中で、我々は必要な行動を取れる態勢が常にできている。介入しているか、していないかについてはコメントしません。言うときもあれば言わないときもある」

と述べたうえで、「(介入の原資は)無限にある」と牽制したのだった。

「お互いに胸の内を読む局面、妙に静かな150円超え」

   はたして財務省は介入に動くのか、動けない理由があるのか、あるいはすでに動いているのか。エコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン版(10月20日付)「円下落、一時1ドル150円台 32年ぶり円安水準」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「(1)円買い介入が効果をあげるには、市場参加者のドルの買い持ちが膨らんでいる必要があります。市場の側もそれを承知しているからこそ、抜き足差し足のドル買いとなっている。お互いに胸の内を読む局面だから、妙に静かな150円超えになりました」

と、財務省と市場の「攻防」を説明。そのうえで、今後カギとなるポイントを、

「(2)円売り・ドル買いに出ている市場参加者が凝視するのは、日本の10年物国債の利回りです。それは昨日に続いて日銀が上限としている0.25%を上回りました。(3)為替市場で政府・日銀が円安防止を狙った円買い介入を実施しつつ、債券市場では日銀が長期金利抑制に動く――市場が突くのはそんな『ねじれ』です。10月28日の日銀の金融政策決定会合に向けて、円売り、債券売りが続きそうです」

と予想した。

株価下落を繰り返すニューヨーク証券取引所
株価下落を繰り返すニューヨーク証券取引所

   ヤフーニュースのコメント欄でも、三菱UFJリサーチ&コンサルティング小林真一郎氏も、10月27、28日の日本銀行の金融政策決定会合がポイントになるとした。

「150円という大きな節目を越えたうえ、警戒していた大規模な為替介入が見送られており、円を売り込みやすくなっています。介入が実施されれば、円の下落もいったん止まるでしょうが、日米両国の金利差拡大というファンダメンタルズに変化がない限りは時間稼ぎにしかなりません」

と、介入の効果は期待できないとの見方を示したうえで、

「(10月20日発表の)貿易赤字の拡大でも示されたように、財の取引において大幅なドル不足・円余剰の状態にあることも円売り材料です。(中略)日本銀行の金融政策決定会合では、現状の緩和策が維持されると思われますが、そこでの黒田総裁の発言にも注意が必要です。金融緩和維持を改めて強調してマーケットを煽るような発言が飛び出せば、一段と円安が進むリスクがあります」

と、日本銀行の「黒田発言」が要注意だとした。

   一方、同欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏が、「原資は無限にある」という財務省の「神田発言」も問題があるとした。

「確かに外貨準備や各国中央銀行との通貨スワップを使い、協調介入などができれば、かなりの介入はできると思います。もっとも、こうした行為は市場メカニズムを歪ませてしまうリスクもあります。
また、通貨は日本だけの事情で決まるのではなく、通貨間の力関係で決まり、過度な介入は他国に迷惑をかける可能性もあります。政策当局としての本気度を示したものと考えられますが、実際のところ介入には限度があります。結局のところ、日本経済の回復を進めて、金利引き上げが展望出来ない限り、円安傾向は続くと見られます」

「政府・日銀は、米国から制約をかけられている?」

円安加速に手を打たない日本銀行本店
円安加速に手を打たない日本銀行本店

   12月中旬には1ドル=160円に達する可能性もある、と警告するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「1ドル150円を超えて円安が進行:円安の一巡には米国金融政策姿勢の修正を待つしかない」(10月20日付)のなかで、政府・日銀がなかなか再度の介入に動かないのは、米国からなんらかの制約をかけられているではないか、と推測する。

「政府の為替介入は、9月22日以降、明確に確認されている範囲内では行われていない。過去の為替介入では、一度政府が為替介入に踏み切ると、しばらくは断続的に、時には毎日のように為替介入が実施されることが多かった。それと比べると、今回の為替介入姿勢は非常に慎重であり異例である」
「これは、日本政府が円安の流れを食い止める、あるいは円高方向に変えるための介入ではなく、G7の合意を尊重して、『為替レートの過度の変動や無秩序な動き』が生じる場合にそれをけん制する狙いで実施することを為替介入実施の条件としていることが理由なのではないか。あるいは、米国当局から事前に為替介入実施の承認を取り付けた際に、そのような条件を付されたのかもしれない」

   現在のように過度な変動ではなく、ジワリジワリと上がり続けている状態では、米国の了承が得られにくいのではないか、というわけだ。

日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)
日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)

   そして、円買いドル売り介入を行なった9月22日以降、むしろ円安進行のペースは上がっており、そのペースのままジワリジワリと上がっていけば、12月中旬には「次の節目」である、36年前の1986年につけた「1ドル=160円20銭」に達するという。

   木内氏はこう結んでいる。

「この先は、米国で景気減速傾向が次第に強まる中、ドル高進行のペースも徐々に低下していくことを前提に、年末から来年初めのタイミングで、1ドル160円の手前で円安に歯止めがかかる、と現状では考えておきたい」

過去の介入実績からわかるのは「結局、時間稼ぎ」

下落が続く東京証券取引所
下落が続く東京証券取引所

   一方、過去2回の円買いドル売り介入を分析して、財務省の狙いに迫ったのが明治安田総合研究所フェローチーフエコノミストの小玉祐一氏だ。

   小玉氏はリポート「円安は止められるか~過去の円買い介入に見る財務省の勝算~」(10月20日付)のなかで、まず9月22日の為替介入について、

「介入は失敗だったと論じる向きも増えつつあるが、評価は時期尚早である。確かに、2兆8千億円もの大金をつぎ込んだ後の動きとしては、物足りないかもしれない。ただ、(中略)介入後の円相場の乱高下の頻度は下がっている」

と、市場への抑制効果はあったとしている。

   そして、1991年~1992年と、1997年~1998年に行なった2回の円買いドル売り介入の結果をグラフで示しながら、詳細に分析した=図表1、図表2参照

(図表1)1991年~1992年の円買い介入局面(明治安田総合研究所の作成)
(図表1)1991年~1992年の円買い介入局面(明治安田総合研究所の作成)
(図表2)1997年~1998年の円買い介入局面(明治安田総合研究所の作成)
(図表2)1997年~1998年の円買い介入局面(明治安田総合研究所の作成)

   小玉氏によると、介入の際、財務官が「本日、断固たる措置をとった」と高らかに宣言した場合もあれば、ステルスで行なう場合もあった。後者についても、一度に大きい売買の注文を入れる場合もあれば、ターゲット近辺に細かな円買い(売り)の玉を並べる手法もあった。

   しかし、過去の介入実績からわかったのは、「介入だけで為替相場のトレンドを変えたと考えられる局面はほぼなかった」ということだ。では、これから行われるかもしれない介入にどんな意味があるのか。

「景気、金利等、米国とのファンダメンタルズ面でのバランスの変化がない限り、為替相場の中期的なトレンドは変わらない。(中略)この点、為替介入は、ファンダメンタルズ要因に変化が生じるまでの時間稼ぎ的な役割を担うに過ぎない。それは今回も同じである」
「結局、介入が効くかどうかは、タイミングに左右される面が大きい。ファンダメンタルズ面での潮目の変化を捉えることができるかどうかがひとつのポイントである。また、一方的な円安が進んだときのみ介入するのか、膠着状態や自律的な転換を待って介入するのか、技術的な面も影響する。この点は財務省の手腕が問われることになる」
ニューヨークのウォール街
ニューヨークのウォール街

   今回、いつまで時間稼ぎをすればよいのか。小玉氏はこう結ぶ。

「米国の12月の利上げ幅が0.5%に縮小するかどうかである。もし縮小すれば、利上げペースのピークアウト感が台頭する可能性が高く、円売り局面も一巡の可能性が高まる。(中略)それまでなんとか一方的な円安進行を防ぐことができれば、後から振り返った時に、介入は効果があったとの評価が得られる可能性もある」

(福田和郎)

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