厚生労働省は10月14日、「令和3年度 我が国における自殺の概況及び自殺対策の実施状況」(「令和4年版 自殺対策白書」)を発表した。2021年の自殺者数は、11年ぶりに増加に転じた2020年から74人(0.4%)とわずかながら減少に転じ、2万1007人だった。ただ、若年層の自殺者が増加するなど、自殺者対策に課題も残っている。
男性は女性の倍程度、女性では増加傾向に懸念
警察庁の自殺統計によると、2021年の男性は1万3939人で前年比116人(0.8%)減少したが、女性は7068人と同42人(0.6%)増加した。
自殺者数は2003年に統計開始以来最多の3万4427人を記録した。その後は3万人台での推移が続いたが、2010年には減少に転じ、2010年には最少の2万169人となった。しかし、2020年には前年比912人(4.5%)の大幅増加となり、11年ぶりに増加に転じた。
この背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用の不安定化や外出自粛、在宅勤務、登校・授業の減少など、生活様式が大きく変化したことがあると見られている。
これに対し今回、新型コロナ前の日常に徐々に戻り始めた2021年の自殺者数は減少に転じたが、男女別では、男性が前年比116人(0.8%)減少したのに対して、女性は同42人(0.6%)増加で、増加傾向が続いている=表1。
男性の自殺者数は女性の倍程度という状況が続いているため、自殺者の総数の傾向は男性の自殺者数に近い動きとなる。2003年に最多の2万4963人まで増加したが、その後は減少が続き、2021年まで12年連続で減少している。
2020年に自殺者数が11年ぶりに増加に転じたことは前述したが、男性は2020年も前年比23人(0.2%)減少している。ということは、総数の同912人(4.5%)増加は、女性の同935人(15.4%)の増加によるものだ。
女性の自殺者は1998年に最多の9850人となったが、その後は緩やかな減少傾向にあった。だが、2020年に大幅に増加し、2021年も増加していることは、非常に懸念される。これまで男性の自殺者数の半数以下だった女性の自殺者数は、2021年に半数を上回ってきた。
10、20代の増加傾向気になる...特に、大学生では3年連続増加
自殺者の傾向として、女性の増加とともに懸念されるのが、若年者の増加だ。2021年の年齢階層別の自殺者数を見ると、これまでは40~60代の自殺者数が多かったが、近年は10~30代、特に10代、20代の自殺者の増加が目立つ。
2021年に増加した年代は、20代が前年比90人(3.6%)増、40代が同7人(0.2%)増、50代が同193人(5.6%)増となっている。
ただ、2020年に引き続き増加しているのは20代のみだ。2020年には10代が前年比118人(17.9%)増、20代が同404人(19.1%)増と10代、20代のみが2ケタ以上の大幅増加となっていた=表2。
10、20代の自殺者数を男女別で見ると、男性は10代で前年比40人(8.6%)減少しているが、20代では同15人(0.9%)増加。女性は10代で同12人(3.9%)、20代で同75人(9.0%)増加している。年代では男女ともに20代、性別では女性の増加が目立っている=表3。
10代のほとんど、20代の前半はまだ学生だ。では、学生の自殺者数の動向はどうなっているのか。「学生・生徒等」の内訳をみると、大学生が最も多く、2020年、2021年と400人を超える自殺者が出ている。次いで、高校生が同じく2年連続で300人以上の自殺者となっている。
ただ、自殺者数は100人台だが、中学生も連続で増加しており、2年連続で増加したのは中学生と大学生のみだ。特に、大学生は3年連続で増加しており、増加傾向に歯止めがかからない状況が続いている=表4。
男女別で見ると、男性では大学生の298人、高校生の169人の順だが、大学生は前年比1人の増、高校生は同30人の減となっている。一方で女性は、高校生145人、大学生136人の順となっており、高校生は前年比5人の増、大学生は同18人の増となっている。さらに、女子中学生は3年連続の増加で、増加傾向が強まっている=表5、6。
このように、2021年の自殺者数は前年よりも減少したものの、10代、20代の特に女性の自殺者の増加傾向が続くなど、若年化する傾向が強まっている。
自殺にはさまざまな要因があるものの、若い命が失われることのない社会環境、経済環境を実現していくのが、政治の重大な責務だ。