1998年秋の「世界金融危機」に似てきた?
この英国の金融システムの混乱が世界金融危機につながりかねない、と警告するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「英国の金融混乱はグローバル金融不安の前触れか」(10月18日)のなかで、英国金融市場の混乱の震源地となった、英国年金基金が採用している年金負債対応投資「LDI」(Liability Driven Investment、債務連動型運用)に注目した。
「LDI」とは2000年代初めから欧州で広がった年金運用の1つ。木内氏はこう説明する。
「これは、将来の年金支払額(負債)の見込みに運用収入(資産)が見合うように、債券を中心に運用する仕組みである。年金基金はその一環でデリバティブ(金融派生商品)を活用して、変動金利を支払う一方、英国債利回りに連動する固定金利を受け取る金利スワップを行う。LDIの2021年の運用規模(想定元本ベース)は1.6兆ポンド(約260兆円)と、10年間で約4倍にまで増えていた」
ところが、トラス政権が大規模減税政策を発表したことで国債利回りが急上昇、年金基金の「LDI」のデリバティブの評価損が一気に膨らんだ。あわてた英イングランド銀行は国債買入を時限措置として行ったが、それも10月14日に打ち切った。金融不安を招く「LDI」の火種は残っているわけだ。
1998年秋に発生した米国の大手ヘッジファンドの破綻による世界金融危機は、LDIと似た国債の利回りに関連する金融商品がきっかけだった。「LDI」を取り扱っているのは英国内にとどまらない、米国、日本でも扱っている。
木内氏はこう結んでいる。
「LDIを震源とする今回の英国金融市場の混乱が、グローバル金融危機の引き金になると考えるのは、現時点ではまだ悲観的過ぎるだろうが、今後次々と表面化していく世界の金融不安の前触れになった可能性は十分に考えられるところだ」
(福田和郎)