まるで新興国のよう...インフレの火に油を注ぐ逆噴射
そもそも英トラス政権の経済政策の何が悪かったのか。「新興国のポピュリスト政権のような」信じられない政策と痛烈に批判するのは、りそなアセットマネジメントのチーフ・エコノミスト黒瀬浩一氏だ。
黒瀬氏のリポート「鳥瞰の眼・虫瞰の眼:英国の誤った財政政策が世界の先例となり1970年代のようなスタグフレーションが再来するリスク」(10月18日付)では、GDP(国内総生産)ギャップを無視したトラス政権の大盤振る舞いの「バラマキ政策」に呆れている。
GDPギャップとは、国の経済全体の総需要と供給力の乖離(かいり)のこと。景気判断の参考指標と同時に、物価の先行きを予測する指標にも用いられる。プラスの場合(総供給より総需要が多い)はインフレギャップと呼び、好況や景気が過熱しており、物価が上昇する要因となる。
逆に、マイナスの場合(総需要より総供給が多い)はデフレギャップと呼び、景気の停滞や不況となっており、物価が下落する要因となる。英国は現在(2022年)、プラス0.4であり、インフレ傾向であることは明らかだった=図表1参照。
ところが、トラス政権は当初、「バラマキ、バラマキ、バラマキ」と言える450億ポンドもの大減税対策を打ち出した。大部分の財源は国債の新規発行だ。黒瀬氏はこう指摘する。
「GDPギャップのプラス幅を拡大させるこの財政政策は、インフレの火に油を注ぐ逆噴射である。(中略)まともな先進国である英国で、経済成長を志向する保守党の政権が、このような新興国のポピュリスト政権のような誤った財政政策を打ち出したのは驚きである。従来の常識なら、これは1980年代の中南米のような通貨危機や財政危機を頻繁に起こした新興国で、素人の政治家がポピュリズムの波に乗って国家元首となった場合に打ち出す政策だ」
「結局は財政政策の効果を打ち消す大幅な金融引締めに追い込まれるだろう。そうなれば、経済はスタグフレーションとなり、通貨の下落、金利の上昇、株価の下落など金融市場は混乱するだろう。1980年代にラテンアメリカの多くの国がスタグフレーションで『失われた10年』に陥ったのと同じメカニズムだ」
ただし黒瀬氏は、日本の岸田文雄首相が電気代などについて前例のない思い切った対策を打ち出しているが、
「GDPギャップがマイナスの日本では(2022年はマイナス1.7%、再び図表1参照)実現可能だ」
としている。