年収が自分より3分の1以下。家事育児を全くやらないし、家にお金も入れない夫。「こんな旦那ならいらないですよね?」。そう悩みを訴える女性の投稿が炎上気味だ。
この女性は、子育てのため仕事をセーブしているが、フルタイムなら年収3000万円以上だという。また、結婚当初から家にお金を入れる割合は妻7:夫3だったが、夫は起業して「まだ大変」ということで「ゼロ」に。飲んで帰ることが多い。2人の子どもに「パパいる?」と聞くと、「いなくてもいいい」という返事。
この投稿には「女性が完全に自立すると、夫はいらなくなる」「ポイ捨てしなさい」という共感と、「夫をモノ扱い」「子どもがかわいそう」という批判の声も。
妻が圧倒的な経済力を持った典型的な「格差婚」の夫婦、どうすれば幸せになれるのか。専門家に聞いた。
「妻が働き、夫は専業主夫」ワークスタイル、6分の1に減少
<自分より年収3分の1以下の夫、家事育児ゼロ、家計負担ナシ...それならポイ捨て? 女性の投稿が炎上...経済力持つ妻に、夫は不要? 専門家に聞いた(1)>の続きです。
――論争の背景には、高収入の妻が完全に自立しているというか、家計をすべて担っている新しい夫婦のあり方があります。しかし、夫が専業主夫になるどころか、家事育児を一切しないという問題点もあります。
川上さんが研究顧問をされている、働く女性の実態調査機関「しゅふJOB総研」で、今回のテーマにマッチした調査をされたことがありますか。
川上敬太郎さん「仕事と家庭の両立を希望する主婦層に、10年後の未来を想像した時に増えそうな、夫婦のワークスタイルについて尋ねたことがあります。
◇10年後の未来を想像した時に増えそうな、夫婦のワークスタイルは?
調査をしたのは2020年ですが、『夫婦対等に共働き』するスタイルが増えるだろうという回答が6割を超えて断トツでした。一方、『妻が中心となって働き、夫は補助的に働く』は4.3%、『妻が働き、夫は専業主夫』は2.3%に留まります。両方合わせて6.6%しかありませんでした。ということは、妻のほうが家計収入を支えている投稿者さんのご家庭は、レアな存在だと言えそうです」
――投稿者のように自立している女性は、10年後でも珍しいと考えられるわけですか。
川上敬太郎さん「そのとおりです。実はもっと深刻な結果が浮かび上がりました。過去の調査結果と比較したところ、『夫婦対等に共働き』と回答した人の比率が徐々に下がってきていました。2013年には77.8%だったのが、2020年には60.2%に下がっています=図表参照」
川上敬太郎さん「なかでも減少傾向が特に顕著だったのが、妻の自立度が高い『妻が中心となって働き、夫は補助的に働く』『妻が働き、夫は専業主夫』の2項目です。2013年時点と比較すると、極端に減少しています。
2013年には『妻が働き、夫は専業主夫』が13.1%だったのが、2020年には約6分の1の2.3%に減少、2013年には『妻が中心となって働き、夫は補助的に働く』が17.3%だったのが、2020年には約4分の1の4.3%に減少といったありさまです=再び図表参照」
働く主婦の10年後の未来は「暗い」と想像する人が増えた
――意外です。ずいぶん減っていますね。その7年間で男女共同参画や働く女性支援がずいぶん進んだはずなのに、時代に逆行している気がします。いったい何があったのでしょうか。
川上敬太郎さん「その背景として、夫婦共働きの家庭は増えているものの、妻の家事育児負担の度合いがあまり変わっていないことが考えられます。フリーコメントにはこういった声が寄せられていました。
『自分の旦那だけの問題でなく、世の中全体的にまだ母親に負担がかかりすぎている。会社という組織が専業主婦時代を全く抜け出せていない考えを元に作られている』
『結局、育児や家事の負担は女性が背負う文化は10年では変わらない』
『女性が疲弊する世の中になると思う。まだまだ男尊女卑の考え方があり、女性が家庭のことをやる風潮でありながらも、家計の生産性もあげないといけない』
もし仕事のボリュームが増えているのに、家事や育児の負担が変わらないとしたら、妻としてはたまったものではありません。10年後の未来を想像した時、働く主婦にとって『明るい』と答えた人は37%いましたが、『暗い』と答えた人も35%いたのです。この『明るい』と答えた人の比率も、過去3回の調査では毎回減少しているのです」
――それは深刻な問題ですね。
川上敬太郎さん「いま働き方が多様化している一方で、職場や家庭での改革が実感できていないため、明るい未来を想像できない女性が増えている気がします。
投稿者さんもその1人なのでしょう。とても自立している女性と思われますが、家計収入を1人で支えながら、家事や育児もワンオペでこなしています。その頑張りには敬服する一方で、心身の疲れを溜め続けてしまっているのではないかと心配してしまいます」
「もう結婚した理由が失われてしまっているのかも...」
――回答者の多くは「家にお金も入れず、家事育児拒否の夫など不要です。さっさと捨てましょう」と離婚を勧める意見が圧倒的です。
川上敬太郎さん「家庭生活を運営する観点からは、たしかにいまの夫は不要かもしれません。しかし、もともと結婚当初から投稿者さんのほうが遥かに収入は多かったことを考えると、投稿者さんは収入を当てにして夫と結婚したわけではないように思います。
離婚するか否かを判断するうえでポイントとなるのは、結婚した理由が失われてしまったかどうかでしょう。家にお金を入れなくても、家事育児もしなくても、一緒にいられればいいと考えて結婚したのであれば、いまの夫の状況を踏まえても、敢えて離婚する理由にはならないのかもしれません。
ただ、投稿内容を見る限り、投稿者さんご自身はこのままでも離婚してもどちらでもよいという気持ちになっているようです。その様子から察するに、一緒にいたいという気持ちが薄れてしまったなど、投稿者さんの中ではすでに結婚した理由が失われてしまっているのかもしれません」
「15年連れ添う中で風化してしまった感情の名残雪」
――また、「まさに同じ理由で離婚しました。別れて幸せです」「私も同じ境遇ですが、あなたのように経済力があれば別れたいです」と、同じ立場の妻からも共感の声がよせられています。
川上敬太郎さん「同じような境遇で離婚したいと考えているものの、それが実行に移せない妻は少なくないのだと感じます。離婚を押しとどめている大きな原因となっているのが、お子さんへの影響と経済力なのだと思います。
お子さんへの影響については避けようがなく、自分の力だけで解決できるものではありませんが、経済力は自分の意思と行動次第で解決できる可能性があるものです。いざという時に選択肢の幅を狭めてしまうことにならないよう、一定水準以上の経済力を持っておくことは、妻の人生にとって重要な観点なのだと思います」
――しかし一方で、「夫に対して、『いらない』という言葉はモノ扱いをしているようで失礼だ」と、投稿者の上から目線に見える姿勢に反発する意見も多いです。
川上敬太郎さん「『いらない』と、まるでモノに対して使うような言葉が出てしまうほど、夫に対する感情が冷めてしまっている、ということなのかもしれません。一方で、そこに滲(にじ)む不満の感情も見えます。15年連れ添う中で風化してしまった感情の名残雪のような、悲しい言葉だと感じます。
ただ、『いらない』という言葉はあくまで投稿者さんから見た視点で発せられたもののようですね。仮に夫がDVを振るうなど、子どもたちが明らかに敬遠しているような場合は別かもしれませんが、子どもたちにとってはたった1人の父親です。投稿者さんに気を使って言っている可能性もありえます。子どもは時に、大人が思っている以上に状況を深く理解していることがあるので、じっくりと子どもたちの本音に耳を傾ける必要があると思います」
今回の話題について、川上さんのアドバイスも熱を帯びました――。<自分より年収3分の1以下の夫、家事育児ゼロ、家計負担ナシ...それならポイ捨て? 女性の投稿が炎上...経済力持つ妻に、夫は不要? 専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。
(福田和郎)