いつから映画やドラマは「鑑賞」対象ではなく、「情報収集」手段になったのか?

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「オタクへの憧れ」が強いZ世代

   次に、理由を視聴者側の内的要因に求め、説明している。それほどまでに倍速視聴したくなる気分とは何なのか?

   若い世代の「友達の話題についていきたいから倍速で観る」という声に注目する。LINEグループで出た話題の作品はなるべく観て、感想を書き込む必要がある。1990年代後半から2000年代生まれ、現在10代後半から20代半ばくらいのZ世代には、以下の特徴があるという。

1 SNSを使いこなす
2 お金を贅沢に使うことには消極的
3 所有欲が低い
4 学校や会社との関係より、友人など個人間のつながりを大切にする
5 多様性を認め、個性を尊重しあう

   ここから導かれるのが、「オタクへの憧れ」だという。それもアイドルやアニメのキャラクター、あるいはクリエイターの「推し活動」をしているオタクだ。オタクになれば、結果的に自分は「個性的」にもなれるというわけだ。

   個性を求める心、オタクへの憧れ、スペシャリスト志向......。これらは「石の上にも3年」的なキャリア観が急速に薄れつつある現代社会の反映でもある、と分析している。

   効率よくオタクというスペックを獲得しようとする若者への批判もあるが、稲田さんは「今の学生は圧倒的に時間とカネがない」と擁護する。

   学校が出席に厳しくなる一方、金銭的な問題でアルバイトをせざるを得なくなり、「やるべきことが昔の若者より増えてしまい、作品を嗜む自由な時間、可処分時間が少なくなったことが、映画やドラマを早送りする一因」という声を紹介している。

   さらに、コンテンツ自体にも変化が起きた。「快適さ」だけを求める傾向があるという。

   「主人公は頭から終わりまでずっと強い。しかも自分は汗ひとつかかず指示を出す主人公が好まれる」そうだ。ライトノベルやスマホゲームには特にそうした傾向が強く、「観たいものだけを観たい」という生理が感じられるという。

   倍速視聴は、コンテンツの中身にまで影響を与えているというから、いまや無視できない現象と言えるだろう。

   作品がわかりやすさと快適さだけを追求して行ったら、底の浅い作品だけが増えるのではないだろうか。時代はもはや「作品鑑賞」ではなく「コンテンツ消費」ということなのだろうか。

(渡辺淳悦)

「映画を早送りで観る人たち」
稲田豊史著
光文社新書
990円(税込)

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