厚生労働省が2022年10月6日に公表した2021年8月から10月までの妊娠届出数の状況(速報値)によると、届出件数は恒常的な減少が続いている。
ただ、「新型コロナウイルス感染拡大による大きな変化はない」と判断し、2020年10月以降、臨時的な対応として公表してきた月別の妊娠届出数状況の速報値を、今回をもって終了するとしている。
妊娠届出数は前年同期間比2.9%減だが、前々年と比べると...
妊娠届出は母子健康手帳の交付や妊婦健康診査、両親学級、産前産後サポート事業などの母子保健サービスが適切に住民に行き届くよう、市町村が妊娠している者を早期に把握するための制度だ。
法令上、妊娠届出時期について時限は定められていないが、妊娠11週以下の時期の届出を勧奨しており、2019年度には93.5%の妊婦が妊娠11週までに届出を行っている。
公表によると、2021年1~10月累計の妊娠届出数は70万5134件で、前年同期間の72万6100件と比較すると2万966件(2.9%)減となった。
2万件以上の大幅な減少となっているが、2019年と2020年の同期間の減少は3万9742件(5.2%)減少しているため、「むしろ回復傾向にある」と言える。
月別の妊娠届出数を見ると、新型コロナ感染拡大の影響のなかった2019年に比べ、新型コロナの影響を受けた2020年で届出数が2019年を上回ったのは3月のみで、その他すべての月で前年を下回っている。とくに、5月は前年に比べ1万4422件(17.7%)も減少した。
一方で、2021年10月までの届出数では、すでに2020年を上回っている月が3月と6月となっており、最も減少数が多かった10月も前年同月比で1万288件(13.2%)の減少にとどまっている=表1。
2020年の「婚姻数」は12.3%大幅減だった
妊娠届出数は、当年と翌年の出生数・率のベースとなるため、重要な意味を持つ。
もちろん、妊娠のすべてが無事に出産できるわけではなく、不幸なケースに終わる場合もある。また、この統計は双子や三つ子などの多胎妊娠の場合も、児の数にかかわらず1件として届出がなされるため、妊娠届出数がそのまま出生数に反映されるわけではない。それでも、妊娠届出数は出生数にかなり近い数になる。
厚労省では、新型コロナの影響による妊娠への影響を把握するため、月別の妊娠届出数の速報値をとりまとめ公表していた。
たしかに、新型コロナの影響はほとんどなかった2019年の届出数は91万6336件で前年比の減少は2.1%だったが、新型コロナの影響が本格化した2020年は87万1598件と前年比で4万4738件(4.9%)も減少した。
この点では、新型コロナの影響が出ていると見ることも可能だが、過去の年別の妊娠届出数の減少率を見ると、ジグザグの減少率をたどっており、新型コロナの影響がまったくなかった2018年には前年比で5.3%も減少している=表2。
このため、厚労省では2021年の届出数が前年比で見た場合に、2020年よりも小幅なものにとどまって推移していることから、「新型コロナによる大きな変化はない」と判断したわけだ。
しかし、日本人の多くは結婚→妊娠(もしくは妊娠→結婚)というプロセスを辿るケースがほとんどではなかろうか。その点では、2020年の婚姻数は新型コロナの影響で、52万5490件と前年比で7万3517件(12.3%)減少の大幅なものになった。
多人数での集まりに規制がかかり、海外渡航が原則禁止されたことで、結婚式を延期・取りやめするケース相次ぎ、結婚式場では「閑古鳥が鳴いた」。2019年は「令和元年婚」がブームとなったことで、婚姻数が増加したこともあるが、やはり2020年は新型コロナの影響により婚姻数が大幅に減少したことは確かだ。
妊娠から結婚に進むケースを除けば、結婚してもすぐに子どもを作る(妊娠する)新婚はそれほど多くはないだろう。しばらくは新婚生活を楽しんで、あるいは、共働きを続けて、子どもを育てる準備をしてから、子どもを作るもののではないだろうか。
となれば、2020年の婚姻数の減少が妊娠届出数の減少というかたちで変化や影響が現れるのは、まだ先のことになる可能性がある。したがって、2021年の10月までの妊娠届の状況で、「新型コロナの変化は大きくない」と判断するのは時期尚早だと思うのだが。