「2022年4月以降、脱炭素経営への関心はさらに高まったと言えるでしょう。いま各社が注力しているのは、情報開示に紐づく、今後の目標設定や戦略づくり。これらはこの先、具体的なGHG(温室効果ガス)削減に取り組むうえで、道しるべとなっていくものです」
こう語ったのは、企業の脱炭素の取り組みに向けて、戦略立案から実行支援までサポートする「グリーンコンサルティング」サービスを手掛けるNTTデータ、法人コンサルティング&マーケティング事業本部の担当課長・佐藤雅俊さんだ。
脱炭素経営への機運が加速するなか、同社では2022年10月、GHG排出量の可視化プラットフォーム「C-Turtle(TM) (シータートル)」の本格運用がスタートするなど、脱炭素の目標設定を急ぐ企業の支援体制をさらに充実させている。
現代の重点テーマである脱炭素の動向、脱炭素経営の取り組みポイントについて、2022年「【関西】脱炭素経営 EXPO」(11月16日~18日/インテックス大阪で開催)に出展予定のNTTデータ・佐藤さんに話を聞いた。
いま求められているのは、将来を見据えた経営戦略とそのシナリオ
――脱炭素経営に関して、2022年4月、「プライム市場」上場企業には、気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられました。それ以降、企業を取り巻く環境、関心などに変化はありますか。
佐藤雅俊さん「4月以前は、大手企業を中心としてGHG(温室効果ガス)の排出量について、環境省への報告が半ば義務付けられていて、かねてから排出量算定に取り組んでいた企業もありました。
ところが4月以降、上場企業には、金融安定理事会が設置した『TCFD』(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示が実質的に義務付けられる状況に変化しています。
以来、弊社にもコンサルティングの依頼など問い合わせが増えました。具体的には、これまでまったく算定していなかった企業はもちろん、算定経験のある企業からはTCFD開示という枠組みの中で、どう取り組んだたらよいか、相談が寄せられています」
――TCFD開示では、どのようなことが求められるのでしょうか。
佐藤さん「気候変動がもたらす自社への影響をどう認識しているかについて、ステークホルダー(投資家など)が適切に評価できるよう、次のような情報を開示する必要があります。
(1)ガバナンス...どのような体制で検討し、企業経営に反映しているか。(2)戦略...短期・中期・長期にわたる企業経営への影響を考えているか。(3)リスクマネジメント...気候変動のリスクをどのように特定・評価し、低減していくか。(4)指標と目標...どのような指標で判断し、目標を評価しているか。
ようするに、たんにGHG排出量を報告するだけではなく、具体的な脱炭素の取り組みを視野に、将来を見据えた経営戦略、そのシナリオも求められているのです」
――将来、脱炭素に取り組むために必要となってくる目標設定、戦略づくりを進めるうえでのポイントは?
佐藤さん「まずは自社を含むサプライチェーン全体で、どれくらいGHGを排出しているか『可視化』して、現状を把握することが欠かせません(※1)。目標を立てるには正しく現状を理解する必要があるからです。そこで、まず必要となるのが、自社が関わるスコープ1、2のデータ、それから、サプライヤーの持つスコープ3の情報を広く集めること。そして、集めたデータをもとに算定し、数値化していきます(※2)」
(※1)排出量の算定は、国際基準の「GHGプロトコル」にもとづいておこなわれる。ここには、排出区分として、スコープ1(自社での直接排出量)、スコープ2(自社での間接排出量)、スコープ3(その他の間接排出量=自社排出以外で、調達や出荷などにかかる排出量)がある。
(※2)スコープ3は15のカテゴリーに細分化されている。算定では、各事業活動による排出活動がどのカテゴリーに当てはまるか判断しなくてはならない。なお、サプライチェーン排出量=スコープ1+スコープ2+スコープ3の排出量のこと。
排出量の「可視化」はあくまで起点...大事なのは削減ヘの取り組み
――情報収集と算定、いずれも大変な作業です。そこでNTTデータでは、こうしたデータをオンライン上(ソフトウェア上)に集約し、サプライチェーン排出量を可視化するプラットフォーム「C-Turtle(シータートル)」を展開しています。
佐藤さん「C-Turtleの強みは、スコープ3のうち、カテゴリー1(サプライヤーから購入した製品・サービス)とカテゴリー2(資本財)の算定において、一般的な算定方法とは異なる、『総排出量配分方式』を適用しているところです」
――「総排出量配分方式」とはどういったものでしょうか。
佐藤さん「込み入った話になりますが、順を追って説明すると、一般的な算定方法では、調達した原材料・製品の数・購入額(=活動量)に対し、活動量あたりのCO2排出量(=排出原単位)を掛け算し、算定するものです。この排出原単位は、環境省がデータベースとして出しているもので、業界平均値をとっています(図参照)。
実は、ここに問題があります。
というのは、排出原単位が業界平均値のまま固定されているため、たとえば取引先のサプライヤーがGHGの削減に取り組み成功したとしても、その削減効果が自社への間接排出量(=スコープ3のカテゴリー1、2)の算定結果に反映されないのです。
ようするに、数字上、サプライヤーや自社の企業努力の実績が表れないのです」
(図)C-Turtleが適用する「総排出量配分方式」について。なお、「総排出量配分方式」の適用は、国際NGO「CDP」(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の保有データをシステム内で活用することで可能となった
佐藤さん「これに対して、『総排出量配分方式』では、業界平均値は用いず、サプライヤーとの取引額を『活動量』、サプライヤーの売上高あたりの排出量の割合を『サプライヤー別排出原単位』として、それぞれを掛け算し、算定します(図参照)。こうすると、前述の問題点をクリアしますし、より実態に即した排出量の算定につながるのです」
――こうしたサービスを通じて、NTTデータでは脱炭素社会の実現に向け、どのようなビジョンを描いているのでしょうか。
佐藤さん「思い描いているのは、社会全体でのカーボンニュートラルの実現です。そのため、排出量の可視化は、あくまで起点です。最も大事なのは、社会が、それぞれの企業が、GHGの削減に取り組むことでしょう。もっとも、そのための前段階として、逆算して考えていくと、削減を目指す道しるべとなる『削減計画』が必要で、そのためには現状の実態に即した排出量の可視化が大切だと考えています」
佐藤さん「C-Turtleを通じて、企業間データによってサプライチェーン全体だけでなく、業界を超え、究極的には社会全体までつながって排出量の可視化ができたら、理想ですね。すると、みんなで有効な施策を打てて、『脱炭素』の取り組みがもっと加速するのではないか。NTTデータのITやデジタルの力を駆使して、脱炭素社会の実現に近づけていけたらと思っています」
――そんな理想の社会の実現に向けて、企業が脱炭素、脱炭素経営に取り組むうえで、さまざまな企業の脱炭素ソリューションが一堂に会する、RX Japan主催の展示会「【関西】脱炭素経営 EXPO」(インテックス大阪)はヒントとなりそうです。2022年11月16日~18日の期間中、NTTデータも出展します。
佐藤さん「秋展では私も現地にいきましたが、GHG排出量の算定に苦労されている企業さんからの相談を多数受け、関心の高まりを感じました。いまや排出量を可視化して終わりではなく、最終目標である削減の実行を視野に、何をすべきか考えている企業も少なくありません。一方では、まだ進んでいない企業が多いのも実情ですから、『【関西】脱炭素経営 EXPO』でヒントを得て、ぜひスタートをきってほしい。当日のブースでは、私たちの取り組みをアピールしていきたいと思います」
大盛況だった「脱炭素経営EXPO 秋展」
――最後に、脱炭素社会の実現に向けて、どんな思いがありますか。
佐藤さん「脱炭素への機運の高まりはもともと、18世紀の産業革命以降の人間の活動によって排出された温室効果ガスの総量と、世界の平均気温の上昇に相関があることがわかってきたことからです。このような負の連鎖を断ち切るためにも、脱炭素の取り組みは、社会の責任として、持続可能な発展に向けて、取り組まなければならないものです。いまこそ私たち現役世代は、何をすべきか考え、そして行動していかなければなりませんね」
――ありがとうございました。
●「C-Turtle」は日本国内における株式会社NTTデータの商標です。
企業の「脱炭素経営」のヒントとなるソリューションが一堂に会する、国内最大規模の脱炭素経営に特化した専門展「脱炭素経営EXPO」。2022年「【関西】脱炭素経営 EXPO」が2022年11月16日~18日、インテックス大阪で開催する。脱炭素経営を目指す経営者、経営企画、ESG・サステナブル部門などの担当者が多数来場するなど、関係者注目の専門展をお見逃しなく。
【企業プロフィール】
NTTデータ
https://www.nttdata.com/jp/ja/
1988年設立。国内トップSIerとして、システムインテグレーションの業界をリードする。「カーボンニュートラル」の領域では、同社のデジタル技術を活用して、顧客の悩み・困りごとに応える「グリーンコンサルティング」サービスを展開、戦略立案から実行支援までをサポートする。同サービスの一環となる、GHG可視化プラットフォーム「C-Turtle(シータートル)」は2022年10月、本格運用がスタートした。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた気候変動対応ビジョン「NTT DATA Carbon-neutral Vision 2050」を掲げ、その実現に向けた取り組みにも注力する。