円安急加速、1ドル147円台に! 政府・日銀の再為替介入あるか? エコノミストの見方真っ二つだが、共通点は「やってもやらなくても効果ナシ」

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   「再び日本政府・日本銀行の為替介入があるか?」。ジリジリするような金融市場の緊張のなか、円安が加速している。

   2022年10月12日、ニューヨーク外国為替市場でドル円レートは1ドル=146円台に乗せ、9月22日に政府・日銀がドル売り円買いの為替介入に踏み切った水準を超えて、円安が進行した。翌13日の東京市場でもさらに円安が進み、一時147円台目前に迫った。

   政府・日銀は再び為替介入をするのか? また、その効果はあるのか? エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 再びドル売り円買いの為替介入はあるのか(写真はイメージ)
    再びドル売り円買いの為替介入はあるのか(写真はイメージ)
  • 再びドル売り円買いの為替介入はあるのか(写真はイメージ)

10月13日夜、ドル円レートが劇的に動きそうな理由

   ドル円レートが1ドル=146円台を超えた10月12日、米ワシントンでG20財務相・中央銀行総裁会合が開かれた。会合では鈴木俊一財務大臣が、先に行なった日本の単独為替介入の説明をするため、G20財務相・中央銀行総裁会合の間は「日本の介入はない」と金融市場ではみられたこともあり、ドル円レートはじわじわと147円台に近付いた。

   会合に参加した日本銀行の黒田東彦総裁が、金融緩和を継続する必要性を改めて強調したことも、円安の流れを後押しした。一方、鈴木俊一財務大臣は現地で記者団に「投機筋が動いて急激な変動があれば断固たる対応をとる」などと述べ、投機的な動きを強くけん制した。

   市場関係者は「緊迫するウクライナ情勢や、英国の財政悪化に端を発した欧州債券市場での各国国債の価格下落が、安全資産としてドルを買う動きに拍車をかけている」とみているようだ。そのドル高の動きが円安をさらに進めているというわけだ。

   また、東京市場の取引が終了し、海外市場が開く10月13日夜に大きな動きがあるとみる市場関係者もいる。日本時間の10月13日午後9時半には注目の米国消費者物価指数も発表され、内容によってはドル円レートが大きく動きそうだ。

巨額の貿易赤字も円安の一因、介入しても効果は一過性

株価が続落するニューヨーク証券取引所
株価が続落するニューヨーク証券取引所

   こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞(10月13日付オンライン版)「7財務相『通貨変動の大きさ認識』 引き締め影響に留意」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、東京財団政策研究所主席研究員の柯隆(か・りゅう)氏は、

「円は1ドル=147円に迫っている。半年以上前から想像され、エコノミストたちは繰り返して警鐘を鳴らしていた。『断固とした措置を取る』と言っていたはずだが、今まで一回限り介入した。その効果は一過性。重要なのは、金融政策の転換であるが、頑なにそれが拒否されている」

と、政府・日銀の姿勢を批判。そのうえで、

「優柔不断な金融当局の鈍さは投機筋にとって円を攻める絶好な機会である。コアなインフレ率云々という議論よりも家計の生活負担は年末に向け、急増しそう。ちなみに目に見える負担と見えない負担がある。ガソリン補助金のような財政出動は税金から支出されている。あれも各家計が今または将来負担することを忘れてならない」

と、物価高に対するバラマキ対策にも疑問を呈した。

日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)
日米の金利差拡大が円安の大きな要因だ(写真は日本と米国の国旗)

   同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「金融政策は各中央銀行の使命に応じて(in line with their respective mandates)、とG7声明はうたっています。しかるにOECD加盟国の8月の物価上昇率を比べると、OECD平均10.3%、EU平均10.1%、ユーロ圏平均9.1%、米国8.3%、G7平均7.5%、日本3.0%という具合に日本はOECD加盟国で最も低い」

と、各国の物価上昇率を比較。そのうえで、

「米欧が利上げを急がざるを得ないのは、こうした高インフレという難題があるからです。日本の低金利が円安をもたらしているのは確かですが、金利差の背景にあるグローバルな物価格差にも目配りする必要があるでしょう」

と説明した。

   ヤフーニュースのコメント欄では、時事通信社解説委員の窪園博俊記者が、円安の動きに歯止めがかかっていない状況に、

「前日(10月12日)の東京時間には、朝方に1ドル=145円90銭前後を突破し、さらにドル高・円安が進む展開となりました。この145円90銭は、先月に政府・日銀が介入した水準と目され、外為市場では介入を指揮した神田財務官にちなんで『神田シーリング(天井)』と呼ばれていました」

と説明。つづけて、「このシーリングを突破した」理由については、

「FRBの利上げと日銀の超緩和維持による日米金利差がなお拡大して投機筋の円売り・ドル買いが活発であること、さらに、日本の巨額の貿易赤字による実需の円売り・ドル買いが根強いためです」

とみている。そのうえで、

「こうした円が売られるファンダメンタルズに変化はない以上、為替介入を行っても円安に歯止めをかけるのは一過性に過ぎず、結局は円安が再び進行することになります。G20で為替介入を説明しても、円安自体は進まざるを得えないでしょう。改めて介入しても効果は一過性とみられます」

と、再び為替介入をしても「無駄撃ちに」と指摘した。

再び為替介入の公算大だが、円安のトレンドは変えられない

米株急落を受けて続落する東京証券取引所
米株急落を受けて続落する東京証券取引所

   一方、再び為替介入の公算が大きいとみるのは、三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏だ。

   市川氏はリポート「為替介入に関する日銀の金融市場調節と財務省からのメッセージ」(10月13日付)の中で、為替介入の実務を取り仕切る財務省の松本千城為替市場課長の発言に注目した。

   松本千城為替市場課長は10月5日、立憲民主党会派財務金融部門会議に出席し、8月末時点の外貨準備180兆円台に対して今回の介入額は2.8兆円であると説明。「特段、介入資金に限界があるとは認識していない。日本の外貨準備は為替介入に備えて流動性に最大限配慮した運用を行っている」などと語った。

   この発言を受けて、市川氏はこう指摘する。

「この発言と、9月末の外貨準備の残高変化は、為替介入が必要な場合は十分なドル資金を用意できる、という財務省からの強いメッセージと考えられます。そのため、この先も、為替相場が過度に変動し、財務省が為替レートの安定が必要と判断すれば、為替介入は相応の規模で直ちに実施される公算が大きいとみています」

   しかし、市川氏はこう結んでいる。

「ただ、為替介入は相場のトレンド転換を目的とするものではないため、ドル高・円安の基調が明確に反転するには、(1)米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げ一服、(2)日銀の異次元緩和修正、といった材料(もしくはそのような思惑)が必要と思われます」

   また為替介入をしても、一過性に終わる可能性が高いというわけだ。

日銀が政策を修正する以外、物価高を抑える方法はない?

円安加速に「手を打たない」日本銀行本店
円安加速に「手を打たない」日本銀行本店

   ところで10月13日、日本銀行が発表した9月の企業物価指数は前年同月より9.7%も上昇、19か月連続で前年同月を上回り、過去最高を更新した。資源価格の高止まりに加え、急速に進む円安が響いたかたちだ。

   この物価上昇に歯止めをかけるため日本銀行は政策の修正を打ち出すべきでは、と訴えるのが野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「為替介入でも止まらない円安が物価高懸念の中心」(10月13日付)の中で、

「主要国の中では唯一、為替の安定に配慮した金融政策運営を行っていないのが日本銀行である。他の中央銀行とは異なり、通貨安回避も含めて物価の安定確保に向けた取り組みを示さない日本銀行の姿勢が、長期間にわたる物価高を許してしまうことを、企業、家計、政府は懸念しているのではないか」

と疑問視した。

   日本銀行自身が発表した企業物価統計(9月速報)を見ると、日本の物価高のけん引役が、海外での食料・エネルギー価格の上昇から円安にシフトしてきていることを裏付けているという。

円安急加速で日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
円安急加速で日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
「その結果、日本の物価高現象を、国内政策の手が及ばない海外の商品市況高のせいにすることは根拠を失ってきている。日本政府が担う為替政策、為替市場に影響を与える日本銀行の金融政策が、国内物価動向、先行きの物価見通しを決める大きな要素となってきたのである」

   つまり、政府がいくら物価高対策を行っても、世界で孤立状態にある日本銀行の金融緩和策に大きな原因がある円安に手を付けないと、根本的な解決にならないというわけだ。木内氏はこう結んでいる。

「政府による為替介入実施後も円安進行に歯止めがかからず、その効果について期待が次第に剥落するなか、日本銀行が為替の安定を通じた物価安定の確保に強い姿勢を示し、それを裏付ける政策修正を行うことへの期待は、今後さらに高まっていくだろう」

(福田和郎)

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