NHKが来年(2023年)10月から地上契約・衛星契約ともに受信料を1割値下げする。
あらゆるものが値上げしているこの折り、値下げの英断に踏み切った「みなさまのNHK」。インターネット上では「歓迎」の声もあるが、「批判」と「反発」も巻き起こっている。いったい、どういうわけか。
批判多かった「巡回訪問営業」とりやめる
NHKが2022年10月11日、公式サイトに公開した「NHK経営計画(2021年~2023年度)の修正案について」によると、構造改革の成果を視聴者に還元するためとして、来年(2023年)10月から地上契約・衛星契約ともに受信料を1割値下げすることや、再来年(2024年)3月に衛星波を1波削減することを打ち出している。
主な内容は次のとおりだ。
(1)受信料額は、地上契約の場合、口座・クレジット払いでは現在の月額1225円から125円値下げして月額1100円。継続振り込み支払いでは、現在の月額1275円から175円値下げして月額1100円=図表1参照。
(2)衛星契約の場合、口座・クレジット払いでは現在の月額2170円から220円値下げして月額1950円。継続振り込み支払いでは現在の月額2220円から270円値下げして月額1950円。また、奨学金の学生への免除などを拡大し、親元などの扶養に入っている1人暮らしの学生も原則免除とする=再び図表1参照。
(3)批判が多かった「巡回訪問営業」をとりやめ、NHKホームページ・アプリなどを活用した「訪問によらない営業」への転換を図る=図表2参照。
(4)来年12月に衛星波の「BS1」と「BSプレミアム」を統合するなど支出抑制策を進める。
――などの内容だ。修正案は10月11日のNHK経営委員会で了承された。来年の通常国会で承認さえれば、正式に決まる。
朝日新聞(10月12日付)「自民からの声、NHK一転 地上波も値下げ、原資倍増1500億円」によると、NHKは当初、衛星放送のみを1割程度下げ、割高感を解消することを狙っていたという。
10月6日の定例会見でも、前田晃伸会長は「(衛星契約の伸び悩みについて)値段の問題も当然あると思うので、優先して下げさせていただきたい」と語っていた。ところが、自民党総務省経験者らから「地上契約の世帯にも還元すべきだ」との声が強まり、前田会長は地上契約を含めた複数の値下げ案の用意を指示。最終的に、地上契約も約1割値下げする案を経営委員会に示したという。
「昔と比べ、NHKの存在に疑問を感じる」との意見
いずれにしろ、受信料が安くなるわけだから、「歓迎」の声が湧き起こっていると思いきや、ヤフーニュースのコメント欄では「批判」の大合唱である。
「125円下げても年額わずかに1500円! 物価高騰で年間出費が約7万円増加するとの試算が報道されている。1500円では焼け石に水!私はこの数日間、出雲駅伝やゴルフ中継など民放しか見ていない。月額500円が妥当だと思う」
そもそもテレビというメディアが時代に合わなくなった今、見ない人からもお金をとるのはどうなのか、という意見も。
「戦後の街頭テレビの時代にできたような放送法(1950年公布)が今の時代にも対応できているとは思えない。緊急時の広報手段にしたってTV・ラジオ以外にもJアラートなどの新しい色々なメディアのインフラはできているのだし、NHKだけを優遇する理由が正直理解できない。ガス抜きの値下げでなく放送法改正を視野に入れたNHKの抜本改革をお願いします」
「バラエティー、ドラマ、ワイドショーは民放に任せてニュースと教育、たまにドキュメンタリーでいい。チャンネルも1局で制作費切り詰めて税金から支払えばいい。徴収コストは本当に無駄です」
「東日本大震災後、ローカル局の対応が一番良かった。同じことの繰り返し、いつ、放送を見られるかわからないのだから、適切な報道だった。輪番停電・計画停電の最新情報もローカル局のホームページが一番正確で早かった」
「災害時はテレビより一番良いのはラジオって推奨されていますよね。(中略)情報伝達凄く早いです。スマホは、災害時に繋がりにくくなったりしますが、利便性も高くて必要な情報簡単に拾えますし、TVしかなかった昔と比べたらNHKの存在に疑問を感じます。(中略)今の時代、(無料で利用できるインターネット媒体もあり)、料金的に見ても非常にNHKは高額に感じます。時代に合わせて好きな方が見るべきです」
「見たい人だけが有料で見るスクランブル化が公平」の声
NHKは「スクランブル放送化」を目指すべきだという声が圧倒的に多かった。スクランブル放送とは、契約した人だけがテレビを視聴できるシステムだ。だが、政府はスクランブル化には反対の立場だ。また、NHKは公式サイト「よくある質問集 なぜ、スクランブルを導入しないのか」のなかで概略をこう説明している。
「公共放送として、特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています」
「緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることの出来ない番組も数多く放送しています」
「スクランブルを導入した場合、どうしても『よく見られる』番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう『健全な民主主義の発達』の上でも問題があると考えます」
一方では、こんな反発の声が寄せられた。
「値下げじゃなくてスクランブル化!利用する人が対価を負担する。これが本来の道理」
「テレビを所持したら(中略)NHKとの契約義務が発生するというのが異常でしょう。電気、ガス、水道、電話、ネット全部利用意思がない、もしくは払わなければそれが利用できなくなります。NHKも同じように利用意思がない、もしくは払わない家庭にはNHKの放送だけ映らなくすればいいだけ」
「スクランブル化にして、見たい番組だけ料金を払って見られる(CSと一緒)ようにすれば、誰だってフェアだし文句は言わない」
「教育テレビとニュース、ドキュメンタリーを一つのチャンネルにして月額500円程度にすればよいと思う。朝ドラや大河などのドラマや、紅白などを作り続けるならスクランブル放送にして観たい人から別途有料で徴収すればよいと思う」
「コンテンツで勝負して、スクランブル化を求めていた人たちも取り込めばよいだけの話」
「私も一番はスクランブル化してほしいですが、今は500円でも高いと感じます。(中略)芸能人使ったワチャワチャした番組は民放がやればいいと思っています。でも最近、災害時もネットのほうが情報早いし、停電したら結局テレビを見られないし、と考えたら、結局必要?となってしまいます」
もっとも、受信料値下げを歓迎する人からは、こんな意見があった。
「受信料の話なのに、半分以上は関係ない文句ですね。NHKは朝ドラでも大河でもなく、ドキュメンタリーの質が高いです。全国どこでも映るし、教育テレビも優秀だと思います。みんなお世話になっているはずです。私も受信料は高いと思っていますが、みんなが払えば受信料は下がると思っています」
(福田和郎)