「良いニュースは悪いニュース」ウォール街衝撃の雇用統計! 米株下落が日本に飛び火...1ドル=146円目前! エコノミスト「次は消費者物価指数に注目」

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   「良いニュースは悪いニュースだ」。2022年10月7日に発表された米国の9月雇用統計が、ウォール街に再びショックを与えた。

   労働事情が予想外に堅調な結果から、FRB(米連邦準備制度理事会)が容赦なく利上げを進めるとの見方が支配的になり、株価は一気に下落した。米国の動きは日本にも飛び火。10月11日の東京市場も急落、円安が加速し、1ドル=146円寸前まで進んだ。

   折しも、ロシアとウクライナの戦争がクリミア大橋爆破事件によって激化。世界経済は混沌状態に入った。いったいどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 株価下落が続くニューヨーク証券取引所
    株価下落が続くニューヨーク証券取引所
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政府・日銀が介入しても「円安が進むのは避けがたい」

   連休明けの10月11日の東京株式市場は、米国で大幅な利上げが続いて景気が減速するとの懸念が強まって全面安となり、日経平均株価終値は714円安の2万6401円に急落した。

   また、東京外国為替市場は、日米の金利差が拡大するという見方から円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は一時1ドル=145円90銭に達した。

   円安の加速に鈴木俊一財務大臣は、同日の記者会見で「為替の動向については強い緊張感をもって注視している。万が一過度な変動があれば、適切な対応をとる」と述べ、為替介入を辞さない構えを改めて示した。

   しかし、市場関係者は「為替介入の影響は限られている」と見ているようだ。日米の金利差の拡大に加え、ウクライナ情勢の緊迫化もあって、有事に強いドルを買う動きがみられる」と冷ややかな反応を示した。

どうなる世界経済?(写真はイメージ)
どうなる世界経済?(写真はイメージ)

   こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。ヤフーニュースのコメント欄では時事通信社解説委員の窪園博俊記者は、「米雇用統計の9月分は総じて市場予想より強めとなりました」として、こう指摘した。

「すなわち、民間就業者数、失業率、平均賃金など重要項目はいずれも強く、このことは労働市場の強さがインフレを高進させやすいことを意味します。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は0.75%の大幅利上げを継続する公算が大きいとみられます」

と予測。そのうえで、

「このことは、日本にとって『悪い円安』が今後も進みやすいことを意味します。(中略)外為市場では、日本と米国の金利差が開くため、低金利の円を売って金利の高いドルを買い、金利差を確保する裁定取引(=2国間の金利差を利用して利ザヤを得るために行う短期の資金取引)が今後も活発化するとみられます」

と見ている。また、政府・日銀の為替介入については、「あくまでもスピード抑制にとどまり、円安がなお進むのは避けがたいとみられます」と、効果は限定的だとした。

米国経済に「Good News」はウォール街に「Bad News」

「悪いニュース」に衝撃を受けたウォール街
「悪いニュース」に衝撃を受けたウォール街

   今回の雇用統計がウォール街に与えた衝撃を、その名も「Good News Is Bad Newsの典型 11月FOMCは0.75%の利上げになろう」(10月11日付)というタイトルのリポートにまとめたのは、第一生命経済研究所主任エコノミストの藤代宏一氏だ。

   藤代氏が雇用統計の中で「Good News」だとしたのは「失業率が(市場の)予想以上に低下した」こと。一方で、米国経済にとっては、雇用が引き続き堅調であることを示して明るいニュースであるはずだが、ウォール街にとっては「堅調なデータは労働市場が利上げに耐えられるとの自信を」FRBに与えた点で「Bad News」なのだとする。なぜなら、11月FOMC(連邦公開市場委員会)では4会合連続で0.75%の利上げが予想されるからだ。

   藤代氏はこう指摘する。

「9月雇用統計で台風の目となったのは普段あまり注目されない失業率であった。3.7%で横ばいが見込まれていた失業率は3.5%へと低下し、労働市場の底堅さを映じて『しまった』。3%台半ばの失業率は4%台半ばへの上昇を覚悟しているFed(米連邦準備制度)にとって低すぎる水準だろう」

   もう1つ、「Bad News」があった。

「今回の雇用統計で残念だったのは平均時給の高止まりと労働参加率の低下であった。平均時給は前月比プラス0.3%、前年比プラス5.0%と市場予想通りに減速したものの、依然としてパンデミック発生前を著しく上回っており、また瞬間風速を示す3か月前比年率の伸びはプラス4.8%と減速の気配に乏しかった。背景にあるのは労働参加率の低下、すなわち労働市場から人々が大量離脱したことによる労働者不足である」

   年代別にみると55歳以上がやや上昇した一方、働き盛りの25~54歳が低下した(図表1参照)。また、55歳以上の回復ペースも驚くほど鈍い。企業側としては高い賃金を提示しながら人手不足の穴を埋めなくてはならない。つまり賃金インフレの鎮静化にまだ相応の時間を要することを物語っている。

(図表1)米国の年代別労働参加率(第一生命経済研究所の作成)
(図表1)米国の年代別労働参加率(第一生命経済研究所の作成)

   このこともFRBがインフレ抑制のために、今後も強硬な利上げを続ける予想につながっているわけだ。

「コロナで労働統計はかく乱状態、指標性を失っている」

ドルを買って円を売る円安が加速する(写真はイメージ)
ドルを買って円を売る円安が加速する(写真はイメージ)

   もっとも、「雇用統計に頼ること自体が経済を見誤ることになる」といったトーンで警鐘を鳴らすのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏はリポート「米国労働需給は緩やかに緩和(9月雇用統計):11月0.75%の利上げ継続の観測強まる」(10月11日付)のなかで、

「労働関連統計は、新型コロナウイルス問題によって依然として大きくかく乱されており、指標性を失っている、あるいは景気に対して遅効性が強まっている可能性が考えられる」

と指摘する。だから、

「FRBが雇用統計に重きを置いて経済・物価の状況を判断し、急速な利上げを続ければ、景気を著しく悪化させてしまうオーバーキルのリスクは高まるのではないか」

と懸念する。

   そもそも、現在の米国の雇用統計や物価統計など足元の経済指標は、事前予想を上回るものが少なくないが、

「その事前予想自体に下方バイアスがあるのではないか。事前予想との比較ではなく、数値自体で判断すれば、経済活動や物価上昇率は鈍化傾向にあることを示唆するものが多い」

と、FRBの「やりすぎ」を心配する。

10月13日発表の「米消費者物価指数に注目集まる

FRBのパウエル議長(FRB公式サイトより)
FRBのパウエル議長(FRB公式サイトより)

   さて、米国のインフレ動向が収まりを見せ始めれば、FRBの利上げ幅縮小も視野に入りそうだが、それはいつごろになるのか。「今年12月頃には視野に入るだろう」とみるのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。

   石黒氏はリポート「米国のインフレと雇用環境について考える」(10月11日付)のなかで、米消費者物価指数(CPI)のサービス価格に注目している。

   リポートでは、個人の賃金を長年追跡調査している米アトランタ連邦銀行のデータ(アトランタ連銀賃金トラッカー)の動きと、米消費者物価指数(CPI)のサービス価格が相関関係にあることをグラフ(図表2)で示した。

(図表2)アトランタ連銀賃金トラッカーと米消費者物価指数(CPI)サービス価格(野村アセットマネジメントの作成)
(図表2)アトランタ連銀賃金トラッカーと米消費者物価指数(CPI)サービス価格(野村アセットマネジメントの作成)

   そして、こう述べている。

「米国のインフレ動向を探る上で重要なのは、利上げ環境下でも上昇基調が継続している米CPI(消費者物価指数)のサービス価格です。同価格は米賃金の伸びと連動する傾向があり(図表2)、今後、米賃金の伸び鈍化が顕在化するようであれば、サービス価格主導のインフレの落ち着きとともに、米国の物価上昇圧力は緩和されていくと考えられます」
「年内残り3回の米CPIの発表が予定されるなか、米賃金と米CPIのサービス価格の伸びが共に鈍化すれば、12月のFOMC(米連邦公開市場委員 会)での利上げ幅縮小も視野に入ります。当面は米国の雇用や物価動向から目が離せないといえそうです」

   注目の9月の米消費者物価指数(CPI)は10月13日(日本時間同日午後9時半)に発表される。

(福田和郎)

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