加害者にも被害者にもならないために
企業経営の3要素であるヒト、モノ、カネに加えて、「情報」が同等に重要なものであると言われて久しい昨今。ところが、「情報」という資産は目に見えないものであるが故なのか、その高い重要性に反して、未だ軽く扱われがちなのではないかと感じることが多々あります。とくに、経営者の中には「情報の所有権」という概念をしっかりと持ち合わせていない人も散見され、今回のような事件は実は氷山の一角なのではないか、と思うことしきりなのです。
この問題に関して、経営者にとって重要なことは以下の3点に集約されるでしょう。
(1)大手企業に限らず企業経営者が意識しなくていけないことは、情報には他資産と同様に所有権があり、それを犯すことはモノの窃盗と同じく犯罪であるという意識を持つこと。
(2)組織内の一個人がこの法を犯す行為をした場合、それは自身が属する企業の利益のための行為であり、個人だけではなく組織も法令違反の罪を免れ得ないと意識すること。
(3)日常から社員に対し、「情報」の取り扱いに関するコンプライアンス意識の醸成を怠らず、かつ、とくに中途採用の際には採用する者からの旧勤務先情報の提供を期待しないこと。
とくに、(3)は線引きが難しい部分もあります。中途採用した人物の旧勤務先における「経験」は、大いに活かしてもらうべきではあります。ただし、経営者、管理者はそこに機密情報が含まれてはいないかという視点で、常に監視の目を怠らない姿勢が求められているのです。とりわけ、役員クラスや管理者クラスの中途採用時には、一層の注意が必要です。入社時に他社機密情報の持ち込みを禁止する旨の誓約書を交わす、などの対応も必要であるでしょう。
逆に、自社の機密情報を守るという観点からも、ガードを固める必要があります。転職、退職する社員に対して、機密情報の持ち出しを禁じる誓約書を求めることはもとより、口頭でも機密情報を持ち出すことが犯罪であり、万が一それが分かった場合にどのような罰則と刑事訴追があるかということも、明確に伝え、意識させることが必要です。
そのためには、自社における機密情報の定義と取り扱いを明確化し、社内で徹底することが不可欠です。機密情報を簡単に持ち出せると思わせる状況を作らないことが、最善の防止策でもあるのです。
「かっぱ寿司」の件は、一般消費者にも身近な有名企業の経営者が言い逃れの余地がないコンプライアンス違反に手を染めていたということから、大きな注目を集めている事件です。しかしこの事件の本質は、「情報の所有権」という考えを甘く見ると、どこの企業経営者でも加害者にも被害者にもなりうる問題であるということにあります。世の経営者にとっては、本件を他人事ではないという意識で真摯に受け止めてほしいと思います。
(大関暁夫)