「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE 13」では、「本人のために」と注意しても、素直に聞こうとしない部下のケースを取り上げます。
「人」として部下を見つめる
<「本人のために」と注意しても、素直に聞こうとしない部下...どう育てる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE 13(前編)】(前川孝雄)>の続きです。
かつて、私が会社員として管理職を務めていたときのこと。部下の一人が大きなミスを犯しました。中間管理職だった私の一存で収められる事態ではありません。
そこで、担当役員にミスを報告し、事業や組織に及ぼす影響を説明しました。すると一通り私の説明を聞いた役員は、真っ先にこう訊ねたのです。「それで、ミスをしたメンバーの心は大丈夫か?」
尊敬する上司のひと言に、私はハッとしました。
部下からミスの報告を受けた時、まず「お客様や組織内にどんな影響があるか」を訊ね、善後策ばかりを考えていました。そのこと自体、間違いではありません。しかし、組織のメンバーとコミュニケーションをとりながらマネジメントを行うという観点からは、十分ではなかったのです。
私は、役員の度量の大きさと配慮に感じ入りました。大きなミスですから、部下は相当に落ち込んでいるはず。私は、上司として部下の心に対するケアも考えなければいけないことに気づかされたのです。
部下のミスに対し、応急処置をし、原因究明のうえ再発防止を図ることは必要です。元気づけることを優先し、原因究明を曖昧にして、部下を甘やかしてもいけません。
しかし、部下を「人」として見つめることを忘れ、仕事ぶりや業績ばかりを追いかけるだけでは、部下の心は折れてしまいかねません。相手が感情を持った一人の人間であることを常に心にとめ、コミュニケーションを図ることが大切なのです。
部下と同じ側に立つように心がける ~一緒に悔しがりましょう!
部下とコミュニケーションの密度を高める方法の一つは、仕事のなかで意識をして部下と喜怒哀楽を共にすることです。
部下に仕事をしっかりと任せることは大事ですが、決して放置せず、必ず要所要所で報連相(報告・連絡・相談)を受けましょう。報連相は、仕事の進捗管理のためだけではなく、部下と喜怒哀楽をともにするチャンスです。
たとえば、部下がお客様に商品の提案を行う前には、部下から状況を聞きましょう。部下が準備にどう取り生んだか、産みの苦しみや工夫を共有します。提案内容が決まったら、「それでいいよ」と単に承認するだけではなく、「よし。その内容で、ぜひ提案しよう!」と一緒に出した結論として後押しします。
さらに、もし提案が通らなければ「残念だったね」と慰めるのではなく、ともに悔しがりましょう。部下の話や体験を、上司が「自分事」にするのです。
部下からすると、上司は「許可を受ける」「承認される」「決裁をもらう」という「対峙する相手」になりがちです。そこで、報連相を通して仕事のプロセスを共有しながら、あなたのほうから部下と同じ側に立つよう、心がけることが大切です。そうすることで、部下との信頼関係がより深まるのです。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版、2020年10月)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。