株下落で金融資産がピンチになった人が、労働市場に戻ると...
今回の雇用統計では、「労働参加率」の数字にも注目すべきだ、と指摘するのは野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
労働参加率とは、生産年齢人口(16歳以上の人口)に占める労働力人口(就業者+失業者)の割合のこと。つまり働きたいという意思を持った人々がどれだけ働けているかという割合だ。
石黒氏はリポート「FRBの積極的な利上げで高まる信用リスク」(10月4日)のなかで、いわゆる「ジャンク債」といわれる、利回りが高く信用格付が低いハイイールド債スプレッド(利回り格差)の動きに注目した。
金融資産としてハイイールド債を持って働かない人々が、最近、労働市場に戻りつつあり、「逆資産効果がインフレ抑制となる可能性がある」というのだ。
「FRBの急速な利上げを背景に、米国株は下値模索の展開が続いており、こうした動きが米家計に逆資産効果をもたらしていることも見逃せません。米家計の金融資産の前年比がマイナスになる期間と信用リスクの警戒度を示す米ハイイールド債スプレッドが高まる期間は重なる傾向があります(図表3参照)」
「直近6月末には同金融資産が前年比で4兆米ドルを超えるマイナスとなっており、今後こうした動きが一段と強まると、過去と同様にクレジット市場にストレスがかかることが懸念されます。もっとも、米家計金融資産のマイナスは早期リタイアをしたとされる人々を労働市場に回帰させることにもつながるため、米労働参加率の上昇による賃金インフレの抑制を通じ、過度な利上げ観測の後退につながる側面もあります。
その意味では今週発表される9月の米雇用統計が賃金インフレ緩和を示唆する内容となるかが焦点となります」
株価の下落が回り回ってインフレ抑制になり、FRBの利上げを緩めて株価上昇につながる――という不思議な経済のメカニズムというわけだ。いずれにしろ、10月7日午後9時半(日本時間)発表の米雇用統計に注目だ。
(福田和郎)