「足元の物価高への対応に全力をもって当たり、日本経済を必ず再生させます」
第210回臨時国会が2022年10月3日召集され、岸田文雄首相は所信表明演説の冒頭でこう強調し、物価高対策に全力を挙げる考えを示した。
安倍晋三元首相の国葬、旧統一教会と多数の自民党議員の関係などで支持率が急落しているなか、経済政策で何とか反転攻勢に出たいという狙いだ。果たして、思惑通りに事態を打開できるのか。
総合経済対策の目玉...注目される「高騰する電気料金の抑制策」
岸田首相は臨時国会開会に先立つ9月30日、関係閣僚に対し、物価高対策を柱にした総合経済対策を10月中に取りまとめるよう指示した。財源の裏打ちとなる2022年度第2次補正予算を今国会中に成立させる方針だ。
しかし、具体的な制度設計は、ほぼ手つかずの状況。総合経済対策が単なるバラマキに終われば、政権への批判がかえって増す懸念もある。岸田首相にとって臨時国会は、まさに正念場となりそうだ。
岸田首相が総合経済対策の目玉にしようと目論むのが物価対策で、なかでも高騰する電気料金の抑制策だ。所信表明演説でも「これから来年春にかけての大きな課題は、急激な値上がりリスクがある電力料金です」と切り出し、「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」と力こめた。
政権の実行力アピール&支持率回復へ...「前例のない」対策、どう演出?
家庭向け電気料金は、この1年で約2割も上昇した。今の状況では来春以降、さらに2~3割アップすると見られており、手をこまねいていては負担増への国民の不満が政権批判としてさらなる打撃となりかねない。
そこで、先手を打って対策を講じることで批判の芽を摘み取り、政権の実行力をアピールする狙いがある。
とはいえ、実際にどうやって国民の負担増を抑えるのかは「何も決まっていないのが実情」(政府関係者)というから、心もとない。
政府内には、燃油高対策のため年明けから実施しているガソリン元売り各社に対する補助金支給にならって、電力会社に補助金を支給する案などが浮上している。
一方、与党からは「物価高対策を名目に、各家庭に現金を直接、給付すべきだ」との声も。いかにして「前例のない」対策を演出するか、調整は難航必至だ。
そもそも岸田首相が物価高対策にここまで前のめりになる背景には、他に支持率回復につながりそうな政策が見当たらないという切実な事情がある。
政府・与党内には「安倍元首相の国葬が終われば、国内の世論は反転する」との期待もあったが、岸田首相の不人気ぶりは相変わらずだ。政府関係者は「物価高対策でも評価が上がらなければ、政権運営は一気に苦しくなる」と表情を引き締める。
日本経済持ち直すなか、「30兆円規模」検討の政府・与党に疑問の声
思惑通りに国民の信頼を取り戻すのは、極めて難しそうだ。岸田首相が総合経済対策の策定を指示したことで、与党内では補正予算をめぐってバラマキ合戦が始まっている。
政府・与党内では30兆円規模の大型対策が検討されているが、霞が関からは「物価高対策を織り込んでも、それほどの規模が必要とは思えない」との声が強い。日本経済は新型コロナウイルス禍の収束傾向もあり、持ち直しの動きを強めているためだ。
与党側はコロナ禍を受け、「需給ギャップ」の大きさを大型経済対策が必要な理由にあげてきた。内閣府が9月に発表した4~6月の「需給ギャップ」は年換算で約15兆円。1年前に比べ7兆円程度、縮小している。
与党側はこうした不利なデータを無視して、物価高を口実に「2021年の経済対策を上回る規模が必要だ」との大合唱だ。政界から財政規律が失われているのは明らかだ。
1年前の首相就任直後、「聞く力」を強調して国民の期待を集めた岸田首相は、安倍氏の国葬を半ば独断で決めて、袋小路にはまった感がある。
与党の声を聞き、実効性の薄い事業まで盛り込んで経済対策の規模を膨らませれば、岸田首相のリーダーシップの欠如を露呈することになりかねない。
バラマキを求める声に「聞く力」で応じるのか、独断で決断を下すのか。追い詰められた岸田首相は大きな選択を迫られている。(ジャーナリスト 白井俊郎)