「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「宗教と政治」の真相に迫る意欲的な特集
「週刊東洋経済」(2022年10月8日号)の特集は、「宗教 カネと政治」。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」を巡る問題が、国会でも大きな焦点になろうとしている。「宗教と政治」の真相に迫る意欲的な内容だ。
「統一教会は日本で布教を開始した直後から政治に接近し、保守系政治家の歓心を買うような政策を掲げてきた」とし、その原点を教祖・文鮮明氏が1968年に設立した政治団体・国際勝共連合に見ている。国際勝共連合の名誉会長には右翼の大物、笹川良一氏が就任。宗教団体ではなく、政治団体として日本の支配層に受け入れられていったという。
「教団と接点があった」と指摘を受けた政治家たちが実際に接点を持っていたのは、国際勝共連合や世界平和連合、世界平和女性連合といった教団系の政治団体、NGO(非政府組織)団体ばかり。ここに、「統一教会と政治」の複雑さがあるようだ。
宗教学者の島薗進氏(東京大学名誉教授)は、「統一教会は韓国では民族的ナショナリズムを中心に据え、日本の右派政治家とは歴史観も教義のうえでも相いれない関係にある。韓国でも日本でも、教団は自分たちの正体、根本を隠して政治に接近していたということだ」と話している。
そのうえで、統一教会を「日本の特殊なカルト団体」と据えてしまうのは「視野が狭い気がする」という。トランプ氏が教団イベントに何度もメッセージを送っていることからもわかるように、統一教会はグローバルな宗教右派勢力と結び付いている、と見ている。
一方、安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、宗教2世の問題が注目されている。同誌は宗教2世に関するアンケートを実施、当事者770人から回答を得た。
「親・家族の信仰によって、社会生活での支障や苦痛を感じたことがあるか」という質問に対して76.3%があると回答。具体的に苦痛を感じたこととして、「信仰を強制される」「親の布教。自分が布教させられる」ことを挙げる人が多かった。
「精神的・霊的な虐待を受けた」という人も多く、「社会的な支援・相談窓口の設置」を求めている。
宗教団体の政治力が話題になるが、「実は足元の基盤は崩れかかっている」という指摘に注目した。雑誌「宗教問題」編集長の小川寛大氏によると、日本の宗教界は「政治を支配して操っている」どころか、法人数、信者数ともに右肩下がりだというのだ。
たとえば、創価学会。選挙で支援する公明党の比例得票数は、年々落ちている。今年7月の参院選での全国の比例票は618万票で、昨年の衆院選から100万票近く減ったそうだ。
第2位の規模を持つとされる立正佼成会も、参院選比例で推薦した候補が2人とも落選。幸福の科学を母体とする幸福実現党も、比例票を減らした。
銃撃事件が宗教界で緩やかに進行していた凋落のスピードを上げるだろう、と小川氏は予想している。
「役職定年制度」の実態に迫る
「週刊ダイヤモンド」(2022年10月8日号)の特集は、「役職定年の悲哀」。一定の年齢になると、シニアの年収が激減する「役職定年制度」。あまり知られていない実態を、15業界の主要企業の調査から深掘りしている。
保守的な人事制度が多い金融業界だが、役職定年の運用には差があるようだ。
3つのメガバンクのうち、三井住友銀行は他行に比べて採用の数を絞り始めたのが早く、ポストの数に対して人手不足だという。現在のシニア層は不良債権処理などの経験があり、そのノウハウの継承が重要になっている。以前のように、50歳を超えると銀行から出向させるという光景はないそうだ。
また、三菱UFJ銀行は、50歳を過ぎて同期から役員が誕生すると、銀行から出る不文律があり、グループ会社か外部の取引先に行くかの二択を迫られるという。55歳になると役職定年となる制度があるが、その前に外に出てしまうため、あまり意識することはないとも。
そして、みずほ銀行は「かつて50歳を超えると出向していたが、シニア活用もしないといけないため、暗中模索しているところ」と同行幹部は話している。
かたや、進化する技術にキャッチアップすることが求められるIT業界。NTTでは、役員でなければ55歳前後で役職定年を迎える。給料は3割ほど下がり、職場が変わる。大部分が子会社に移るほか、主要取引先に出向することもある。
同業のソフトバンクにも50歳(課長層)から役職定年があるものの、役職を外れても給料などの処遇は変わらない。後任がいないなどの理由で対象年齢になっても、適用を受けない例も多いそうだ。
一方、役職定年を廃止するIT企業も増えていると言っても、実情は決して甘くはない。富士通は2020年度からジョブ型に移行。また年齢による理由ではなくパフォーマンスに応じてポストから外す制度を20年から導入。ポストオフ後の給料はオフ前の75%に削減。対象は若い層も含めた全管理職に及ぶというから厳しい。
NECも21年度から役職定年制度を廃止。年齢に関係なくアサインする役割に応じて処遇を見直す形になった。
すでにジョブ型に移行した日立製作所では、非管理職を含む全社員のポジションごとにジョブディスクリプション(職務内容を詳しく記述した文書)を作成し、その要件を満たす社員を適材適所で配置することになった。
給料は年功序列ではなく、ポジションごとの難易度で決まる。かつての役職定年制度の時代よりもシビアになった、と言われている。
15業界・64社の一覧表を見ると、企業によって役職定年制度はさまざまな運用が行われていることがわかる。各業界の知人の顔を思い浮かべ、「なるほど」と納得するシニアも多いだろう。
介入でさらなる円売りか?
「週刊エコノミスト」(2022年10月11日号)の特集は、「止まらない円安」。24年ぶりに円買いの介入が行われたが、見通しは明るくないというのだ。
政府が9月22日に実施した円買い介入に、「財政破綻を早めるきっかけになったかもしれない」と強い危機感を示すのは、元モルガン銀行在日代表兼東京支店長の藤巻健史氏だ。実力に見合わない通貨高誘導は、市場の餌食になりかねない。
「今回の介入はポンド危機をほうふつとさせる」と言い、投機筋の思うつぼとなり、「第二のソロスが現れる」と危惧している。
市場では「当期筋が円売りをねらうだろう」という予想が広まっており、「ファンダメンタルズが動けば、それに伴って防衛ラインも変わる。現状で想定したラインを突破されたら第2次、第3次のラインを引いてくる。98年8月は147円66銭までいったので、その前後くらいに設定するかもしれない」という第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストの見方を紹介している。
第2部では97年の「金融危機に学ぶ」として、当時の関係者の声をまとめている。
「デフレ・マインドの起点となった」というのは当時、日本銀行の調査統計局課長だった早川英男氏(東京財団政策研究所主席研究員)。「学び直しで新スキルを」と提唱し、岸田政権の「人の投資」に期待している。
「『就職氷河期世代』を再生産してはいけない」というのは、太田聡一・慶応義塾大学経済学部教授。就職困難な若年層をサポートする制度的な仕組みの充実を訴える。
24年ぶりの円買い介入が多くのことを関係者に思い起させたようだ。
(渡辺淳悦)