日銀に頼る国債消化は「未来永劫、盤石ではない」
一方、「日本と英国の状況は似ているが、違う面もある。岸田文雄首相は総合経済政策を打ち出す際、英国トラス政権の失敗を教訓にすべき」と訴えるのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏のリポート「ポンド危機:市場からの警告、日本への教訓~日本と英国の共通点と相違点~」(9月30日付)によると、ポンド下落のグラフ(図表1参照)を示しながら、日本と英国が違うのは次の面だと指摘する。
「(日本は)今のところは、主に予備費の範囲内で、物価対策を行っているので、岸田政権は財政規律を一応は守っていると言える。所得税・法人税の減税を行っていない点でも、日本はそこまで大胆ではない。しかし、仮に岸田政権が財源の当てのない財政出動を行い、大規模な国債発行に踏み切れば、英国のトラス政権と同じような構図に向かうリスクがある」
さて今後、総合経済対策をまとめるわけだが――。
「総合経済対策として取りまとめる対策には、電気料金の抑制策が加わる予定だ。その内容は、トラス政権ほど極端ではないとしても、似ている点が多いことは不気味である。
もしも、岸田政権が、追加的な財政出動を大規模な国債増発で賄うとすれば、英国の事例によく似てくる。せっかく為替介入で円安に歯止めをかけようとしているのに、財政出動が契機になって円安が進むと元も子もなくなる」
と、懸念を表明する。
だが、日本が英国に比べて、有利な点がある。
「成長率の見通しだ。英国のインフレが長引くと、BOE(イングランド銀行)の引き締めが長期化して、結果的に成長率も低迷する。英国の政策対応を問題視している格付け機関は、2023年の成長率がわずかなプラスに止まり、その後も成長が低迷すると指摘する。
一方、日本の成長率の見通しはそれほど悪くない。(中略)だから、今のところ日本の財政が不安されていないとも言える。とはいえ、今後、米利上げなどの悪影響で日本の成長率が下方修正される可能性は残る。そこで、追加経済対策を通じて、新規国債発行が膨むと、格付け機関や国際機関から問題視されてくる可能性はある」
さらにもう1つ、有利な点がある。
「日本と英国の根本的な違いは、日本が世界一の対外純資産国であり、英国が世界2位の対外純債務国(1位は米国)であることだ。日本は国債増発分を国内で消化できるが、英国は海外で調達することになる。英国は、そうした資金調達の脆弱性があると考えられて、ポンドが売られている」
しかし、いつまでも日本銀行の国債消化に頼ることができるだろうか。
「国債消化は、日銀が買い入れているから大丈夫という点も、未来永劫、盤石ではない。仮に、日本でもっと高率のインフレが起こったとき、日銀は利上げをするかどうかの選択を迫られる。そこで、日銀がいつまでも利上げできないと思われると、それが通貨安の圧力になる。筆者は油断禁物とみている」