なぜGEは凋落したのか?...その原因を探るヒューマン・ドキュメント

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   世界最大の総合電機メーカー、ゼネラル・エレクトリック(GE)は、米国そのものを代表する企業だが、株価は低迷し、ダウ・ジョーンズ工業株平均の銘柄からも外された。

   近年は主要な事業を売却するなどして生き残りを図っている。本書「GE帝国盛衰史」(ダイヤモンド社)は、その凋落の原因を探ったものだ。サブタイトルは「『最強企業』だった組織はどこで間違えたのか」。

   巨大企業の内部で起こっていた隠ぺいと錯誤をヒューマン・ドキュメントの手法で、あますところなく描き出している。

「GE帝国盛衰史」(トーマス・グリタ、テッド・マン著 御立英史訳)ダイヤモンド社

   著者のトーマス・グリタとテッド・マンはウォール・ストリート・ジャーナル記者。GEの多くの元社員、現役社員に取材し、複雑な崩壊劇の真相に近づいている。それは、誰か1人の失敗に帰せられるものではなく、巨大な組織と独自の企業文化の帰結だからだ。

なぜ高配当だったか、わからなかった

   投資家もGEウォッチャーも、GEがどこで利益を上げているのか。なぜ、これほど安定的に配当を継続できるのかわからなかったという。だが、文句のつけようのない配当を前にして、結局、「GEだから」という理由で納得した。GEが多機能不全に陥っていたことを見逃した(配当の秘密については、後述する)。

   最初に登場するのは2018年、在任期間14カ月で解任された最短のCEO、ジョン・フラナリーだ。

   GEヘルスケアのCEOから抜擢されたフラナリーは、GE最大の工業分野の事業会社GEパワーの財務諸表を見て驚く。キャッシュ不足に陥っており、GEパワーの利益は、よく見ると、ほとんど帳簿上の数字にすぎなかったからだ。

   世界の電力の3分の1を発電するタービンの販売と、その保守サービス契約によって利益を上げているように見える。だが、サービス契約がもたらす売上は帳簿上のもので、実際には現金はまだ入ってきていない。また、完成品と部品の在庫が膨れ上がっていた。

   GEのCFO(最高財務責任者)でCEOレースのライバルだったジェフ・ボーンスタインに「きみは知っていたのか?」と叫ぶ場面で第1章は終わる。こんな人くさいエピソードが連続する。

   そこから、歴代のCEOに遡る形で叙述は進む。「偉大な経営者」として名高いジャック・ウェルチが登場する。1981年、入社わずか20年でCEOに就任すると、官僚主義を排除し、経営改革を進めた。

   テレビやトースターなどを売る主要事業を売却し、3大テレビネットワークの1つNBCを所有するRCAを65億ドルで買収するなど、在任20年間で約1000件の企業買収を行った。

   金融サービス部門を拡充し、最盛期には、GEキャピタルはGEの総利益の半分以上を生み出すまでになった。「米国で最も有名な製造企業は、実質的には、米国で最も大きく、最も謎めいた銀行の一つになっていたのである」

   ウェルチ時代の「陰」の部分にも触れている。1980年代にGEは、全従業員の4分の1に当たる10万人以上の首を切り、さらに数万人の雇用を、労働組合がなく低賃金の海外に移した。

   また、「ランク・アンド・ヤンク」(ランク付けして引っこ抜く)という人事手法も恐れられた。管理職に部下のパフォーマンスの年間ランキングを作成させ、下位10%の社員にはその旨を通知し、改善がなければ解雇するというものだ。従業員同士のサバイバル競争を激化させ、チームワークを困難にするという人もいた。

   それでも投資家だけでなく、米国の労働者がウェルチに好意的だったのは、株価が上昇し続けたからだ。1980年から2000年にかけて、GEの売上げは5倍になり、収益は15億ドルから127億ドルに増加し、株価は40倍以上に上昇した。

公然の業績操作

   その後継者選びも変わっていた。

   最終候補者3人を社の内外に知らせる、公開バトルロイヤルのような選考を行ったのだ。そして、最年少だが最有力候補と目されたGEヘルスケアのセールスの天才、ジェフ・イメルトが2001年9月、新しいCEOとなった。

   その直後に9.11の同時多発テロが起きて、景気の後退が懸念されたが、GEは複雑な仕組みで利益目標を達成した。業績操作は秘密でもなんでもなかったという。

「GEでは最初に業績目標が決められ、どうやってそれを達成するかは二の次である。その目標を達成するために必要な数字が各事業に割り振られ、方法はどうであれ、数字を達成することが厳しく求められる」

   期末にはお約束のように「帳尻合わせ」が行われた。こんな風に。

「GEキャピタルが保有する膨大な資産から、換金できるチップがふんだんに提供されたからだ。四半期末の雲行きが怪しくなると、何かが売却された。ビル、駐車場、飛行機など、宝箱の中の何かを売れば、簡単に数字をつくることができた」

   エジソン・コンデュイットという特別目的会社を使った巧妙な仕組みもあった。しかし、エンロンをはじめとする会計不祥事をきっかけに2002年、米国企業改革法が成立し、それまでの方法が通用しなくなった。

   イメルトが就任したとき、株価は約38ドルだったが、09年には12ドルまで下がった。70年ぶりに減配が行われ、トリプルAの格付けも引き下げられた。

   著者は、GEはダブルスタンダードによって恩恵を受けていた、と指摘する。「大手銀行と同じように融資ビジネスで現金を得ながら、GEを堅実で安全な工業会社だと考える投資家の信頼に支えられていた」というのだ。

企業文化の変革進む

   しかし、金融危機で状況は一変。イメルトは金融依存を下げ、デジタルへの転進を図ったが、うまくいかなかった。

   後を継いだフラナリーは、2017年11月、「ここ数年、わが社はフリーキャッシュフローを上回る配当金を支払ってきました」と発表した。株主に配った現金が、余剰収益ではなく借金であり、「配当」と呼べるようなものではなかったことを明らかにした。

   「見せかけの成功は追うな」とGE神話からの脱却を社員に訴えたが、取締役会で解任された。「正直すぎた経営者」と著者は評している。

   後任はダナハーという医療・ライフサイエンス系のコングロマリットのCEOを14年間務めたラリー・カルプで、フラナリーが取締役に招聘した人物だが、寝首を掻かれた格好だ。

   会社の文化をトップダウンからボトムアップに変えると公言。四半期ごとの数字に縛れる経営から脱却しようとしているという。

   ビル・ゲイツも本書を絶賛している。多くの教訓が読み取られ、あらゆる企業、組織に属する人に参考になるだろう。

(渡辺淳悦)

「地理学で読み解く 流通と消費 コンビニはなぜ集中出店するのか」
土屋純著
ベレ出版
1980円(税込)

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