いまや大学生が会社を選ぶ理由の1位に「自分を成長させてくれるかどうか」をあげる時代だ。スキルを磨いて、次の転職に備える若手が多くなった。会社は「定年まで勤め上げる場」ではなくなり、自分を育むステップの1つにすぎなくなったのだ。
そこで、就職・転職のジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワーク(東京都渋谷区)が、会員ユーザーの口コミ投稿から調査した「退職者が選ぶ『辞めたけど良い企業ランキング2022』」を、2021年9月27日に発表した。
いわば「卒業生」が後輩に贈る、元職場のオススメランキングだ。退職者から高い評価を得られた企業の特徴は「卒業前提」でキャリアを積める風土があることがわかった。
外資・コンサルは「昇進か、退社か」の厳しさ
OpenWorkは、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約505万人(2022年8月時点)という。OpenWorkでは、企業の評価を「待遇の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」など8つの指標を5段階で評価している。
今回の調査では、投稿されたクチコミのうち「退職者」による評価に限定、「退職者からの評価が高い企業」を集計した。「辞めたけど良い会社だった」と退職者から評価される企業にはどんな特徴があるのだろうか。
その結果、上位10社のうち6社を外資系企業、4社をコンサルティングが占める結果になった。また、トップ30社内にリクルートグループから4社もランクインした=表参照。
1位は、米国に本社を置く世界的大手コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社。2位は、日本のリクルートグループで企業内研修・人事コンサルを手掛けるリクルートマネジメントソリューションズ。3位は、外資系出身者6人が立ち上げた日本のコンサルティング会社スカイライト コンサルタント。以下、4位は日本の官庁である特許庁、5位は米情報通信の超大手GAFAの一角グーグル。
つづいて、6位は米の創業136年余の老舗コンサルティング、アーサー・ディ・リトル・ジャパン。7位は米の世界最大一般消費財メーカーのP&Gジャパン。8位は米のコンサルティングのベイン・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド。9位は英に本社がある多国籍コンサルティングのKPMG FAS。10位は日本の食品大手サントリーホールディングスという結果になった=再び、図表参照。
いったい、これらの会社には転職後も「よい会社だったなあ」とポジティブな思い出が残る、どんな魅力があるのだろうか。
まず、上位を占めた外資系企業やコンサルティング会社の元社員のクチコミから、見ていくと――。
外資系企業やコンサルティング会社は共通して「自身の次のステージに進むため」「十分育ててもらった」「オファーをもらったから」と言った前向きな声が見られたのが特徴だ。不満による退職ではなく、あくまで次のステップに進む挑戦の意気込みが伝わってくる。
マッキンゼー・アンド・カンパニー「もともと長く居続けるつもりではなかったし、身につけたスキルや経験からして、ネクストステージに進めると感じたから」(コンサルタント、男性)
スカイライト コンサルティング「辞める気はなかったが、事業会社から魅力的なオファーがあったことが退職理由」(コンサルタント、男性)
アーサー・ディ・リトル・ジャパン「事業開発に携わりたいと感じたためです。戦略立案に加えてその後の運営も円滑に進め、市場において付加価値の大きなプロダクトを世の中に上市(初めて市場に出す)してみたいと思いました」(コンサルタント、男性)
P&Gジャパン「会社全体がアップ・オア・アウト(昇進(Up)するか、そうでなければ退社(Out)するか)のカルチャーなので、辞めること自体が割と当たり前です。みんな、ある程度学んだら外に出て活躍を広げるという考えの人がほとんどです。だから辞め時を考えながら勤務している感じです」(マーケティング、女性)
日系企業上位は「風通しの良さ」「チームワーク重視」の風土
一方、ランキングの上位に入った日系企業・組織のクチコミを詳しく見てみると、共通して「風通しの良さ」「チームワークを重んじる風土」「自由闊達で挑戦を応援する文化」を挙げる声があった。代表的な声を紹介すると――。
特許庁「風通しがよく、自由闊達に意見交換できる文化がある。常に改善しようというさまざまな取り組みがなされており、現状に甘んじない姿勢がある」(特許審査部、男性)
サントリーホールディングス「『やってみなはれ』の文化が根付いており、多くの社員が愛社精神に溢れている。温かい人も多い。これがこの会社の強みだと思う。やる気があれば挑戦させてもらえる風土がある。また、人付き合いはかなりウェットで飲み会が多いので、合う、合わないはあると思う」(マーケティング、女性)
また、国内最大級の経営顧問を紹介するマッチングサービスを運営する「顧問名鑑」(東京都中央区)ではこんな声が――。
顧問名鑑「成果主義。年齢や性別に関係なく、努力し、成果を出した人が報われる環境。外資系のようにクビを切る環境はないが、成果で是々非々の判断が下る。マネージャー陣は非常に優秀な方々が多く、オペレーションや法令順守のマインドは高い。また顧客第一主義の観点、チームワークを駆使して活動する文化は、多くの企業の中でも類を見ないような環境で素晴らしいものであった」(新規開拓営業、男性)
リクルートの合言葉は「お前はどうしたい?」
ところで、ランキング2位のリクルートマネジメントソリューションズをはじめ、リクルート北海道じゃらん(16位)、リクルート(17位)、リクルートホールディングス(24位)と、リクルートのグループ会社が合計で4社ランクインした。
日系企業の「卒業文化」の先駆けであるリクルートグループは多くの起業家を輩出していることから、リクルート出身者は「元リク」と呼ばれている。主な上場企業を起業した人だけを並べても、こんなに多い(以下、敬称略、カッコ内は創業した会社)。
宇野康秀・鎌田和彦・島田亨(インテリジェンス=現パーソルキャリア)、安川秀俊(ゴールドクレスト)、小笹芳央(リンクアンドモチベーション)、七村守(セプテーニ・ホールディングス)、有本隆浩(MS-Japan)、安川秀俊(ゴールドクレスト)、廣岡哲也(フージャースホールディングス)、経沢香保子(トレンダーズ/キッズライン)、杉本哲哉(マクロミル/グライダーアソシエイツ)......。
リクルートグループにはどんな「組織文化・企業文化」があるのか。クチコミを見ると、上司が部下に聞く「お前はどうしたい?」という質問が合言葉のように盛んに登場する。手厚いサポートや協力を惜しまない環境、キャリア早期から社員1人ひとりの「個」を尊重し、自律を促す企業風土がうかがえる。
リクルートマネジメントソリューションズ「風通しがよく、頑張る気持ちのある人には、自然とさまざまな部門の人が最大限力を貸してくれます。前向きな挑戦を歓迎し、助力を惜しまない会社です。男女の性差もほとんどなく活躍できます。失敗を恐れず、挑戦することができます。失敗から学ぶことを重視、許容してくれる懐の深い会社です。チーム全体でサポートしてくれます。 一方で、主体的な意志がない人には、非常に厳しい環境かもしれません。周囲からのサポートや助言はありますが、自身で目標設定し、そのために自己マネジメントをできる人にとっては、最高の成長環境だと思います」(営業、女性)
リクルートマネジメントソリューションズ「リクルート社特有の『お前はどうしたいんだ?』という自主自立を重んじた企業文化である。従って常に自分が仕事のオーナーやプロデューサーであり続ける覚悟が必要である。また自己研鑽を常に心がけていないと、置いていけぼりになってしまうこともある」(ソリューション営業部、男性)
リクルート北海道じゃらん「やる気のある人が多い企業の印象です。女性の比率が多いが、変な派閥などなく、フラットに各自が自分の仕事にまい進していた。組織もリクルートの子会社なので仕組みがしっかりしており、かぎりなくホワイトに近い会社だと思います。北海道の基幹産業である観光に対して、インパクトがある事業だと思うので、本人のやる気次第で仕事の幅を広げることができ、成長にもつながるという点では非常に良い会社だと思います」(営業、女性)
リクルート「『あなたは何をしたいの?』という質問がよく飛び交う文化。企業利益を追求するのは当然だが、個人が個の力を発揮することで実績を作り上げていくことを重視していると感じた」(営業、男性)
自分がしたいことを思いっきりさせてくれる企業文化があれば、成長も早いに違いない。
調査は、2019年以降OpenWorkに退職者からの投稿が10件以上ある4272社13万2609件のクチコミを対象データとした。
(福田和郎)