東京都が電気自動車(EV)のモータースポーツ「フォーミュラE」の開催を目指していることがわかった。小池百合子知事が2022年9月20日の東京都議会で明らかにした。
小池知事は「わが国の産業界では、バイクの完全EV化を目指す動きも出てきました。世界各国で環境規制が厳格化する中、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=排ガスゼロ車)へのシフトをさらに急がなければなりません」と所信表明で発言。「その起爆剤ともなり得る世界最高峰の電気自動車レース『フォーミュラE』の2024年の開催を目指し、関係者と協議を進めてまいります」と述べた。事実上の誘致宣言だ。
脱炭素に向けた「環境重視」都政のアピールに
「フォーミュラE」とは、フォーミュラEは「F1」の愛称で親しまれる、モータースポーツの最高峰「フォーミュラ1」のEV版だ。国際自動車連盟(FIA)が主催する新たなモータースポーツとして2014年にスタートした。
排気音や排気ガスを出さないEVの特徴を生かし、レースは原則として市街地の一般公道を閉鎖して行う。現在は「フォーミュラE世界選手権」として各国を転戦。今シーズンはメキシコシティー、ローマ、モナコ、ベルリン、ジャカルタ、マラケシュ(モロッコ)、ニューヨーク、ロンドン、ソウルなどで開催している。
東京都とすれば、韓国ソウルでもフォーミュラEを開催していることから、自動車大国・日本の首都として誘致を目指すのは当然といった判断とみられる。小池知事が取り組む脱炭素化に向けた環境重視の都政をアピールするねらいもあるだろう。
一般公道を一時閉鎖し、クローズトコースとして使用するレースはF1モナコグランプリなどが知られる。サーキットを新設する費用や維持費がかからず、市街地コースとなるため、集客効果も高いといったメリットがある。
東京都内では2015年に六本木、16年に丸の内の一般公道を閉鎖し、民間団体がフォーミュラEのデモ走行を行ったことがある。
フォーミュラE世界選手権に出場するレーシングドライバーが走行したが、「安全を鑑みて徐行レベルのスピード」(主催者)だった。それでもフォーミュラEへの関心は高く、これまで東京、横浜など複数の自治体が開催候補地として浮上していた。
参戦は「技術力」&「環境意識」の高さの表れ...F1撤退表明ホンダの動向にも注目
フォーミュラEには、日産自動車、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、ジャガーなど日欧の大手自動車メーカーが参戦。インドのマヒンドラ、中国のNIO、シンガポールが拠点のエンビジョンなど新興の自動車メーカーやエネルギー関連企業も参戦している。
フォーミュラEへの参戦は、そのメーカーの技術力と環境意識の高さを物語る。それだけに、スポンサーの広告効果も大きい。
日本で唯一の参戦メーカー、日産は「EVがもたらすワクワクする楽しさを世界中のお客さまにお届けするため、フォーミュラEに参戦している。日産にとって5シーズン目となる来季は、従来よりも小型化、軽量化したマシンで、最高速度は時速320キロオーバーとなる」などとコメント。今後も高性能マシンを開発し、世界のトップ争いに加わる意欲を見せている。
現在、日本ではBSフジがフォーミュラEをダイジェストで放送している。
フォーミュラEは排気音がないため、F1のような迫力はないものの、市街地コースを高周波のモーター音を響かせて走る姿は、新時代のモータースポーツとして映像でも存分に楽しめる。
フォーミュラEの東京開催が決まれば、日産に次ぎ、トヨタ自動車やホンダが参戦する可能性もある。とりわけF1撤退を表明したホンダにとっては、EVで世界最高峰のフォミュラカーレースに復帰する意義は大きいだろう。
東京都内の市街地での開催実績はなく...各課題への対応どうなる?
ただし、フォーミュラEの日本開催には課題もある。
日本で一般公道を閉鎖して行うモータースポーツは世界ラリー選手権(WRC)などの実績があるが、地方都市や山間部の開催にとどまる。
東京都内の市街地を世界格式のモータースポーツに使用した実績はなく、具体的なコース選定が難航する可能性がある。レース展開の面白さとコースの安全性を両立させるのは至難の業だろう。
小池知事の誘致表明に対する世論の反応も気になる。大手メディアでは東京新聞が「電気自動車のF1 24年開催に知事意欲」などと伝えたが、フォーミュラEの知名度が一般にはまだ低いせいか、目立った報道はなかった。
果たして東京誘致は実現するのか。具体的なコースの選定と合わせ、今後の行方が注目される。(ジャーナリスト 岩城諒)