主要国の為替介入の動き広がれば、金融市場の混乱進む事態も?
「英ポンド急落が世界金融危機に発展するのではないか」とのトーンで危惧するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「円急落から英ポンド急落へ:にわかに不安定化する世界の金融市場」(9月26日付)のなかで、英ポンド急落が世界の金融市場に波乱を呼びかねない理由を2つ挙げている。
その1つは、トラス政権の「失敗」がインフレに苦しむ多くの国にとって他人ごとではないということだ。
トラス政権の大規模な減税策と国債の増発計画が、財政の悪化につながり、物価上昇率をさらに高めるとの懸念から、英国債・英国株・ポンド安の「トリプル安」を招いたわけだが、それでは「景気悪化に政策面で打つ手がなくなる」懸念があるという。
「景気情勢が厳しさを増す他の欧州諸国でも、今後景気支援のために財政出動を実施しようとした場合、同様な反応が生じる可能性がある。その結果、長期金利が上昇(国債価格の下落)すれば、財政出動の効果が削がれてしまう。また、通貨安が進めば、物価上昇圧力が高まり、それも景気を悪化させ、財政出動の効果を削いでしまいかねない」
たとえば、イタリアでは9月27日に極右政党「同胞」を率いるジョルジャ・メローニ氏の政権が誕生した。28日現在、経済政策を発表していないが、選挙戦では物価高に苦しむ国民に子育て手当の大幅増額など「積極財政」を訴えて不満の受け皿になった。「その新政権がばらまき的な政策を実行すれば、そうしたリスクが高まるだろう」というわけだ。
もう1つは、日本政府の単独為替介入が金融市場の混乱を招く「前例」になったことだ。
「日本を除く主要国では、物価高への対応と自国通貨安回避のためには急速な利上げを進めざるをえない。主要国の中では現時点でも景気情勢がしっかりしている米国の急速な利上げについていかなければ、自国通貨安が進んでしまう。(中略)そのもとで、上記のように財政出動も制約されれば、政策を通じて景気をサポートする道が閉ざされてしまう。このことは、世界経済の先行きに厳しい見通しをもたらすものだ」
そんななか、日本の単独為替介入を「米国など主要国がしぶしぶ認めた」と考えられる。
「ただし、日本にそれを認めたことで、通貨が急落する英国もポンド買いの為替介入を実施する道を開いたのではないか。このようにして、主要国の間で今後為替介入の動きが広がっていけば、国際協調は崩れ、各国間で利上げ競争と自国通貨切り上げ競争の様相が強まるだろう」
金融市場の混乱が進む事態が考えられるというのだ。
(福田和郎)