トラス氏が首相になって「がっかりした」国民5割
トラス政権が金融市場どころか、国民の支持も失っていると指摘するのは、伊藤忠総研の上席主任研究員石川誠氏と副主任研究員岩坂英美氏だ。
2人はリポート「欧州経済:ECB 利上げ加速などインフレ抑制策が相次ぐが、 英トラス新政権の大型減税発表は裏目に」(9月27日)のなかで、英国の8月のインフレ率(消費者物価の前年同月比)が9.9%と高止まりして国民を苦しめていると述べている=図表2参照。
そして、トラス政権が発表した大型減税策が、財政コストの増大懸念から債券安・ポンド安・株安のトリプル安を招く展開となり、むしろスタグフレーション(景気後退と物価上昇が同時進行する現象)を高める材料となりつつある、と指摘する。とくに、国民の怒りを買っているのはこんな理由だ。
「個人減税の恩恵の約3分の2は、上位5分の1の富裕層にもたらされるとの英シンクタンク試算もあり、富裕層優遇が中間層や貧困層への富の浸透につながると説く『トリクルダウン』(=『富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる』とする経済理論)を目指す予算に対する世論は厳しいものとなっている」
もともとトラス氏は、国民に人気がなかった。英調査会社が首相就任前に行った世論調査では、トラス氏が次期首相となることについて、「喜んでいる(pleased)」と答えた国民は約2割にとどまり、5割は「がっかりしている(disappointed)」と答えていた。そこに現在、政権与党の保守党内に亀裂が入っている。
「新政権の主要閣僚に(首相の座を争った)スナク氏の支持者を起用せず、財政健全化を一旦棚上げし、歴史的規模の減税策を打ち出したことが保守党内の一部に波紋を呼んでいる。
次期総選挙の実施が見込まれる2024年までに、野党労働党に逆転を許し低迷する保守党の支持率を回復することに加え、一枚岩とは言えない保守党内の団結を図ることが課題と言えよう」